意外と知られていない!?地産地消の種類と取り組み方法―理論編(前編)

地域創生において地産地消は非常に重要なキーワードです。食品だけでなくさまざまな種類の地産地消があり、総合的に取り組むことで高い経済効果や防災効果を期待できます。
本記事では「理論編(前編)」として、地産地消の種類や効果、国の政策について詳しく解説します。「実践編(後編)」もぜひご覧ください。
地産地消がもたらす効果は幅広い

地産地消には、地域経営の活性化だけでなく、地域の生活向上や防災など多様なメリットがあります。たとえば地域で生産したものを地域で消費することで、地元産業の発展や新たな雇用創出につながります。また、新鮮で安全な食材の提供などにより市民の健康増進につながり、災害時の供給リスクを軽減できます。さらに、地域の文化や伝統的な食の継承、子どもたちへの教育、環境負荷の低減といった観点からも、地産地消は地域全体に豊かな効果をもたらします。
地域経済循環
地域経済循環は、地域内で生産・加工・流通・消費などの経済活動を完結させ、地域内のお金や資源が外部へ流出せず、繰り返し地域内で使われるようにする考え方です。たとえば地域で採れた農産物を地元の直売所やスーパー、学校給食、飲食店で使用することで、生産者の収入はもちろん、関連する流通、販売、加工などの産業にも経済効果が波及します。
こうした地域内でのお金の循環は、地域全体の経済基盤を強化し、安定した雇用や将来の投資余力の増大、農業や水産など各産業の活性化にもつながります。また、企業や団体が連携し合うことで、新たな産業やイベントが生まれ、観光や交流人口の拡大にも寄与します。
この経済循環を推進するためには、行政、企業、団体など組織全体の連携や既存の社会インフラの活用、情報発信の強化が重要です。地産地消や地域経済循環を目指す取り組みは、人口減少や社会構造の変化にも柔軟に対応できる豊かな地域社会を実現する道でもあります。
六次産業化
六次産業化は、「生産(1次)×加工(2次)×流通・販売(3次)」というように、農林水産業が生産にとどまらず、食品の加工や直売などの流通を自ら手がけることで、付加価値を最大化する地域振興の考え方です。
地域経済循環の観点からみると、生産者自身が加工センターや直売所を活用し、地域の新鮮な作物を地元で使って新商品を開発・販売すれば、原料調達から消費まで地域社会にお金が回ります。具体的には、農家が野菜の加工品や郷土料理を地元イベントや施設で提供したり、給食メニューに伝統的な食材を使ったりすることが挙げられます。
こうした取り組みにより、地域の農業や食品産業が活性化され、若者や子どもたちに地域産業や食文化を知ってもらう教育的な効果も期待できます。六次産業化の促進は、個人や法人の所得向上とともに、社会全体の活性と豊かな地域経済循環の実現に大きく貢献します。
雇用創出
地産地消の取り組みを推進すると、農業や水産業の生産活動から加工、流通、販売、観光事業まで地域内で仕事が生まれ、雇用創出につながります。地元産野菜や水産資源を活用した新たな事業やイベントの開催、給食や飲食メニューへの地場産品の使用拡大による人手需要も増加します。加えて、地域農林水産物が加工食品や直売所、観光施設などで活用されることで、地域内の経済循環が太くなり、働く人の所得アップに結びつきやすくなります。
農産物や加工品の販売収益の拡大は生産者や加工事業者だけでなく、流通事業者、小売店、観光施設など地域内の幅広い産業へと利益が波及します。その結果、地域全体の所得が上がれば、地方自治体にとっても税収の増加が期待できるようになり、さらに地域振興や生活環境への投資が実現しやすくなります。
災害レジリエンス強化
地域内で必要な農産物や食品、水資源、エネルギーを生産・加工・流通させることができれば、災害など外部からの供給がストップした場合にも、一定期間地域内で生活物資を確保できます。直売所や地域内の販売所を活用し、食料や水、電力の備蓄提供体制を整備しておくと、災害時も住民の安全・安心を守ることができます。地域独自の自給力強化につながり、地域社会全体のレジリエンス(回復力)や防災力を高めやすくなります。
人口増加
地産地消の推進により地域の産業や事業が多様化し、経済活動が活発化することで、新規就農、Uターン・Iターンなどによる移住者の呼び込み効果が期待できます。地域産業やイベントの拡大、観光や福祉関連事業との連携が進み、新しく働く場所や教育の現場、生活環境が整えば、若者や子育て世代も暮らしやすくなります。
また、地域独自の強みを生かした旬の食や安心安全な生活環境は、移住先としての魅力向上にもつながります。結果的に人口減少の抑制や人口増加への足がかりが生まれ、より活気にあふれた地域の実現へとつながります。
地産地消は農作物だけではない

地産地消は農産物に限定されるものではありません。地産地消とは地域生産と地域消費をつなぐ仕組みであり、食品、エネルギー、水、サービスなど多分野に広がっています。経済の活性化や環境への配慮、食文化の継承にも役立つため、全国各地でさまざまな取り組みが進められています。
生鮮食品
直売所や道の駅、地元スーパーなどで扱われる、地域で採れた新鮮な農産物や水産物などが地産地消の大きな柱です。地元の生産者から直接消費者に販売されることで、旬の食材を新鮮な状態で提供できるのが特徴です。消費者にとっては生産者の顔が見え、安全・安心への信頼感も高まります。地域内流通は、環境負荷軽減にもつながります。
加工食品
加工食品の地産地消と生鮮食品の地産地消の何が違うのかと感じるかもしれませんが、加工食品は生産地以外の地域で作られることも多いです。たとえば、地元で収穫された野菜が他県の工場で加工される場合、加工にかかるお金が地域の外へ流れてしまいます。しかし加工工場が地域内にあれば、生産・加工・流通・消費までが地域内で完結し、地域経済の活性や雇用拡大にもなります。地元食材を活用したお菓子や総菜、弁当の販売が進むと、イベントや観光への集客効果も高まります。こうした取り組みにより、地域ならではの食品文化や加工技術の伝承にもつながります。
エネルギー
聞きなじみがないかもしれませんが、エネルギーの地産地消も注目されています。多くの地域では、電気などのエネルギーを外部の電力会社から購入しているのが現状です。その場合、支払った電気代が地域の外へ流出し、地域経済に還元されにくくなります。
太陽光や風力、バイオマスなど再生可能エネルギーを地域内で増やし、地域内で使用すれば外部へのお金の流出が抑えられ、地域の経済循環が強化されます。さらに、万が一災害などで電線が切れて孤立状態になった場合でも、自前で発電できれば生活の安全が守りやすくなります。エネルギーの地産地消は、地域の防災力やレジリエンス向上にも有効な取り組みとなります。
水資源
水資源も地産地消の概念が大切です。普段は地域外の水道水やダムから水を利用していますが、外部の水源や送水管にトラブルが起きたとき、地域外に頼り切っている状態では大きな影響を受けてしまいます。
災害時や水道管の損傷時に備え、地域内で井戸を掘り定期的にメンテナンスをしておくことで、緊急時でも自前の水源を確保できます。地域独自の水資源利用や管理体制づくりは、災害への備えだけでなく環境への負荷を減らし、結果的に住民の生活の安心と地域活性にもつながります。
一方で、水資源が豊かな地域もあればそうでない地域もあります。水資源の利活用は流域レベルで考えられるべきテーマであり、「なんでもかんでも狭い地域の中で使い切ろう」という観点は推奨されるものではありませんので注意しましょう。
廃棄物
地域で生み出された廃棄物を地域内でできるだけ処分することも地産地消の観点で考えられます。「ごみは地域の中にない方がいいんじゃないか」と思うかもしれませんが、地域で出たごみを地域で処分できる体制を敷いておくことで、災害時に大量の廃棄物が出たときの迅速な対応や、地域の衛生環境を自ら保つことで地域の自立性を高めることにつながります。
また、あまり目を向けられることはありませんが、ごみの処分にも相当なお金が発生します。ごみの処分を他の地域に任せているということは、それだけ大きなお金が日常的に外部へ流出していることを意味しており、地域経済循環の観点でも大切です。生ごみなど食品ロスを肥料やバイオマスエネルギーへ活用する仕組みづくりが、資源循環や環境教育としても意義があります。
小さな町や村単位での廃棄物処分は経済合理性がない可能性もあり、国は一定の広さの地域の中での広域的処理を推進しています。経済合理性を保てる地域の単位で進めるべき地産地消の取り組みといえます。
サービス
地産地消は「サービス分野」にも広がっています。たとえば農作物を地域の中で消費できたとしても、流通や加工サービスを外部に頼っていたら、地域が生み出したお金が外部に流出しますし、生産者は豊かになりますが雇用の波及効果も小さくなってしまいます。実は地域経済を活性化させるには、加工や流通などのサービスが重要になってきます。
他にも、地域のインフラ維持においてもサービスの地産地消ができる状況は大切といえます。たとえば近年問題になっている水道管の老朽化によって破損・断水などが起これば、速やかな復旧工事が必要です。地域の中にこうした技術的サービスを提供できる事業者がいることで、経済や雇用・防災・市民生活の観点で安定感が増すでしょう。
国の政策でも推進している
国として地産地消を重点政策に位置づけ、令和3年3月には食料自給率向上のための重要課題とされています。「食料・農業・農村基本計画」には地域経済振興や資源活用の観点から、地産地消の全国展開が盛り込まれました。 これにより、新事業の創出や経営多角化など農林水産業の振興、各地の地方農政局でのサポート体制整備など、具体的な推進体制が整いつつあります。
六次産業化・地産地消法
六次産業化・地産地消法(地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等および地域の農林水産物の利用促進に関する法律)は、農林水産物の生産だけでなく、加工や流通、販売までを地域内で一貫して行えるよう支援するための法律です。
この法律の目的は、農林水産業と他産業の連携、組織や法人の設立支援、地域資源の活用による所得向上、雇用創出、地域経済の活性化にあります。具体的には、六次産業化計画認定や交付金制度、アドバイザーの派遣など多面的なサポートを行い、地域全体で新たな事業や付加価値の高い農産物の開発が進むよう制度化されています。
エネルギー基本計画
エネルギー基本計画とは、日本政府としてのエネルギー政策の方針です。エネルギー政策の最上位の行政文書といえます。その中で「地域に賦存する再生可能エネルギーの地産地消を推進していく」ことが明記されており、令和7年度に改定されたエネルギー基本計画ではエネルギーについての「地産地消」という言葉が8回も出てきます。
地域経済循環創造事業交付金(ローカル10000)
地域経済循環創造事業交付金(ローカル10000)は、地域が自主的に経済循環を創造し、地域内経済の底上げを図る事業を対象に交付されます。たとえば、農産物直売所の整備や地産地消の推進、再生可能エネルギー導入、地域通貨の普及、観光振興のための施設整備など、多様な産業や活動が補助の対象となっています。
条件は地域の実情に即した計画が策定されていること、官民連携や地域団体の参画、継続的な取り組みが求められることなどです。この交付金は地方自治体や団体の持続的な経済循環活動の大きな後押しとなっています。
「実践編(後編)」で詳しい手法を解説
ここまで、地産地消の取り組みは食品だけでなく、水やエネルギー、サービス、廃棄物など幅広いことをご紹介してきました。「あまりにも広すぎて、何からすればいいのかわからない」という方もいるかもしれません。実践編(後編)では、自分たちの地域の現状を正確な数字で把握し戦略を練る方法や、具体的な取り組み内容をご紹介します。
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