小島進 深谷市長講演【後編】 「ふかや花園プレミアム・アウトレット」オープンまでの道のり
今回は前編に引き続き、小島進(こじますすむ) 深谷市長による講演の後編「ふかや花園プレミアム・アウトレット」オープンまでの道のりをお届けします。前編では、新一万円札の肖像が決まった渋沢栄一を梃に、深谷市を盛り上げるためにさまざまな奮闘をされた小島市長のお話しがありました。後編では「ふかや花園プレミアム・アウトレット」誘致とオープンに至るまでの奮闘をお届けします。
小島進 深谷市長講演【前編】 渋沢栄一の教えを核としたまちづくり はこちらから

講演する小島進深谷市長
深谷にアウトレットを誘致する!
さて、かなり汗をかいて実現させた「ふかや花園プレミアム・アウトレット」 の話をしたいと思います。これもすごいチャレンジだなと思ってワクワクしながらやっていました。
アウトレットには三井系と三菱系がありますね。三井系は都心から半径50キロ。三菱系は大体70~80キロくらいの位置にあります。深谷市は都心から70キロ圏内で、位置的にもちょうどいい候補地といえます。

資料提供:深谷市
なおかつ、関越自動車道沿いにはアウトレットがありません。関越自動車道は軽井沢とか、草津温泉とかに行くために、交通量はあっても深谷市の花園インターで降りることはないのです。花園インターも利用してもらわないと、どんどんすたれていってしまう恐れがある。だからなんとしても、降りてもらいたいと。その装置のひとつとして、アウトレットを呼ぼうと旗をあげたのが15年前でした。
アウトレットを呼ぶと言った時、「2万パーセントできない」とかなり反対されました。しかも花園インターからすぐの土地は、農地以外に使うことのできない優良農地(※)で、地権者が100人ほどいました。だから普通にやっても商業施設なんてできません。
※優良農地:農業生産性が高く、農業振興地域の整備に関する法律(農振法)で保全・確保されるべき農地で、本来は商業施設が建てられない場所。
市長の本気を見せる!
まず事業者の公募をおこなったところ、三菱地所・サイモンさんが手をあげてくれて、かなりいい条件を出してくれました。そういうニーズがあるとわかったので、地権者から市が土地を借り上げて、造成をして、その上に三菱地所・サイモンさんに建物を建てていただくという手法で進めることにしました。
交通渋滞への対策も必要なので、周辺道路整備のほかに秩父鉄道の新駅「ふかや花園駅」を設置することにしました。アウトレットがオープンする5年前です(2018年)。
ただ、当初は1日の乗客数が10人もいないので、多くの批判がありました。造成をしたり、駅を作ったり、その周りの道を全部整備したりしたので、50億円くらいかかったので、よく「50億の無駄遣い」と言われましたね。
反対運動も激しくて、建設反対派の人たちがいただけでなく、地権者も一枚岩ではありませんでした。
私はそういう地権者のところに職員と行って、畑の中でスーツを着たまま土下座をしました。職員は目の前で市長を土下座させてしまったという思いだったようで、職員の目がそこから変わりました。本当に職員はよく動いてくれました。
地権者もひとり、またひとりと納得してくれて、最後の壁が農林水産省でした。農水省にとって優良農地を30ヘクタール減らすというのは大ごとです。これにはキユーピーさんと事業契約を結び、農業の6次化に資する取り組みをするとして、「農地は減らすけど、深谷の農業は絶対に衰退させない」と言ってなんとか許可がおりました。法律の規定に沿っているということはもちろん、それだけではなく市の本気度を私が自ら熱く主張したことも許可に繋がった理由かと思います。
同時に地元の人たちのとの対話も何回も行いました。近くの工場とか商店街とか、地元の商工会とか農協さん。この人たちが反対したらできないだろうっていうことで、何回も一緒に飲ませていただいて。
こんなこと言うと失礼ですけど、やっぱ最後は酒ですよ(笑)。
有力メンバーと飲んで、次回に会うとずいぶんトーンが変わっていることがよくありました。おそらく、その人たちは家に帰って奥様方に話をしたら、私の意見に賛成されちゃったんでしょうね。
「ふかや花園プレミアム・アウトレット」ついにオープン!
こういったいろいろが重なって2022年に「ふかや花園プレミアム・アウトレット」がオープンしました。オープンしてからは、地代と土地建物などの固定資産税が年間5億円以上。これに雇用も生まれ、事業所の売り上げの一部も税金で入りますから、50億の無駄遣いと言われても、10年程度で元が取れる計算です。農地は農家さんから借りている分、年間約2.2億円支払いになります。
当時の農地を売ろうとしたら借地期間にもらえる地代には遠く及びません。ですから、いま農家の皆さんと飲むと「よくやってくれた」と喜ばれるようになりました。

資料提供:深谷市
ちなみに、アウトレットで揉めているさなかに新庁舎建設をしましたが、反対はあまりなく、意外と順調に進みました。新庁舎ではそれほど大きな抵抗がなかったんですね。

2023年7月深谷市役所新庁舎-資料提供:深谷市
選挙に関しても、そもそも私は運が良くて市長になったと思っているので、落選してもいいという覚悟はできていた。落選したのなら、「アウトレットはいらない」が市民の総意ということですから。逆に自分が勝てば「アウトレットを作ってもいい」が総意だと思っていました。
ただ、アウトレットが来た方が絶対いいって言ってくれる人は大勢いるだろうという自信もありました。実際にPTAとかで、若いお母さん方に話すると、みんな期待してくれていましたので。だったら自分の政治生命かけてやろうってことで、覚悟を決めてアウトレットの誘致も選挙戦もやらせていただきました。
そういう気持ちも皆さんに届いたんじゃないかなと思いますね。
これからも職員と一緒に市をもりあげていきますので、ぜひ深谷市に遊びにきてください。
自治体の取り組みを伝えたい、記念誌を作りたいと思ったら
小島市長のお話はいかがだったでしょうか。大きな事業を成し遂げるためには、ワクワク感、そして反対派を味方につけるコミュニケーション力、組織を動かす仕組みづくり、職員に気持ちよく働いてもらうための長としての心配り、なにがかんでも事業を達成させる強い覚悟が必要なのだと感じますね。
新一万円札発行に照準をあわせた渋沢栄一と深谷市のPR活動も、さまざまな取り組みを行っていましたね。ひとつひとつの取り組みがオリジナリティのあるものでした。
これらの取り組みは職員からのアイデアが元だったとおっしゃっていましたが、そういう意見を吸い上げて実現させることができるのは、小島市長の人柄があってこそだと思います。
サイネックスの事業である地域行政情報誌『わが街事典』 では、○周年記念として市勢要覧を発行することもあります。その際は、市長へのインタビュー記事や職員の皆さんに登場していただいたりするほか、市のまちづくりの計画など、しっかりと誌面を割いて紹介しています。もっと市の取り組みを市民に伝えたい。市の事業完成の記念に冊子を発行したい……。
そうお考えでしたら、ぜひお尋ねください。
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