サイネックス・マガジン

住民サービスを支える! 説得力と実現性を高めるための自治体の予算編成の流れとコツ

目次
  1. 自治体の予算編成とは? 自治体運営の根幹をなす計画
  2. 企業予算と地方自治体の予算との違い
  3. 当初予算と補正予算とは年度の計画と変化に対応する仕組 み
  4. 専決処分とは? 首長が緊急時に行う自治体の決定制度
  5. 地方自治体の予算編成の流れ
  6. 地方自治体の予算を獲得するためのポイント
  7. 地方自治体予算編成の成功のポイントは早めの準備
住民サービスを支える! 説得力と実現性を高めるための自治体の予算編成の流れとコツ

自治体の「予算編成」は避けては通れない重要な業務です。しかし、その進め方は複雑で、どうすればよいか迷うこともあるでしょう。予算とは、単なる数字の羅列ではなく、住民の暮らしを守り、地域の未来を築くための重要な計画です。
 
本記事では、自治体の予算編成の基本的な流れから、企業の予算編成との違い、当初予算と補正予算、さらには緊急時の専決処分といった専門的な内容まで、地方自治体の予算編成について幅広く解説します。さらに、予算要求を成功させるための「初動の重要性」に焦点を当て、いつから、どのように準備を進めるべきか具体的にお伝えします。




自治体の予算編成とは? 自治体運営の根幹をなす計画

地方自治体の予算編成は、使えるお金(財源)が限られている中で、住民の皆さんに一番良いサービスを提供するための、非常に大切なプロセスです。これは、ただ数字を並べるだけではありません。自治体が「こんな未来をつくりたい」という目標を立て、そのために「どこにお金を使うか」を決める意思表示でもあります。

職員にとって、予算編成は日々の仕事を進める上で欠かせない事業の財源を確保するための、非常に重要な業務です。




企業予算と地方自治体の予算との違い

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企業や自治体にとって、予算編成とは「お金をどこに振り分けるか」を丁寧に考えるプロセスです。
 
企業では、市場動向や事業計画をもとに「売上や利益をどう伸ばすか」が軸になります。広告宣伝や研究開発など、どこに資金を配分するかを戦略的に決めていきます。一方、地方自治体では「地域の暮らしをどう良くするか」が中心テーマです。道路整備や子育て支援、高齢者福祉など、地域の課題に応じて税金や交付金を配分します。
 
いずれも、大きな目的を忘れずに、限られた資源を最大限に活かすことを目指す点が共通です。


企業の予算編成の目的と進め方

企業の予算編成は、単に数字を積み上げる作業ではなく、「売上や利益の最大化」を中心に、成長戦略や企業価値の向上を目指して行われます。その判断材料となるのは、市場の動向や過去の売上・利益の実績、そして中期的な事業計画にもとづいた収益予測です。

進め方としては、経営層が示す大きな方向性をもとにしたトップダウン方式と、現場の部署が「どの事業にどれくらいのコストが必要か」を積み上げていくボトムアップ方式を組み合わせています。たとえば、新商品の開発にどのくらい研究開発費を配分するのか、販路拡大にどの程度広告宣伝費を投じるのかといった判断は、売上目標の達成に直結する重要なポイントです。
 
こうした調整を経て、限られた経営資源をどこに重点的に投じるかを決め、最終的にコスト配分を最適化することで、企業全体としての成長と利益の拡大を目指していきます。


地方自治体の予算編成の目的と進め方

地方自治体の予算は、地域で暮らす人々の生活をより良くし、身近な課題を解決するために組まれています。たとえば「道路の整備で通学を安全にする」「子育て支援で保育サービスを充実させる」「高齢者が安心して暮らせるよう福祉を強化する」といった取り組みは、すべて予算によって支えられています。
 
そのもとになるのは、住民からの声や地域の課題、国や都道府県の方針、そして地方自治体のお財布事情です。実際の流れとしては、各事業部門が住民サービスを実現するための予算計画を立て、それを財政部門が全体を見ながら「本当に必要なのか」と厳しい目をもって査定・審査します。

このプロセスでは、財源(税金や交付金など)とのバランスを常に考慮しながら、限られた予算の中で「どの分野に、どのくらいのお金を配分すれば、住民サービスを一番良くできるか」を慎重に検討していきます。地方自治体の歳入には使い道があらかじめ決まっている「特定財源」(国庫支出金や地方債など)と、自由に使える「一般財源」(地方税や地方交付税など)の両方があります。そのバランスを踏まえて、限られた予算を配分することが重要です。




当初予算と補正予算とはー年度の計画と変化に対応する仕組み

自治体の予算には、大きく分けて「当初予算」と「補正予算」があります。
 
当初予算は、新年度のスタートに合わせて組まれる「1年間のお金の設計図」で、どのような事業にどれくらいのお金を使い、財源をどう確保するのかを示します。一方、補正予算は年度の途中で発生する想定外の出来事や新しい課題に対応するための仕組みです。災害への復旧費用や国の新しい政策に伴う事業など、必要性が高いものに絞って議会で審議されます。


当初予算

当初予算は、新年度のスタートに合わせて策定される「自治体のお金の基本計画」です。簡単にいえば、1年間の“お金の設計図”であり、「どのような事業を実施するのか」「そのためにいくら必要なのか」「財源をどこから確保するのか」を明確に示します。
たとえば、道路整備や学校の改修、子育て支援や高齢者福祉など、住民の暮らしに関わる幅広い事業の内容と必要な費用が具体的に盛り込まれます。これによって、自治体は限られた資源を計画的に使いながら、地域の課題解決や将来に向けた取り組みを進めることができます。

一般的に、2月から3月にかけて開催される第1回定例会(予算議会)で審議・議決され、4月1日から新年度として執行が始まります。自治体の1年間の方向性を示す、まさに基本となる予算です。


補正予算

補正予算は、年度のはじめに決めた当初予算だけでは対応できない出来事や新しい課題に対応するために組まれる予算です。

たとえば、台風や地震で道路や学校を修繕する費用、税収の増減に応じた調整、国の経済対策に合わせた子育て支援事業の追加などが挙げられます。また、国や都道府県の法改正により必要となる福祉関連の費用や、国の補助金を活用した地域活性化事業、感染症対策や医療体制の強化といった緊急性の高い課題にも対応します。

このような補正予算は、議会でしっかりと審査され、「本当に必要か」「緊急性があるか」が認められた場合にのみ成立します。つまり、予算を柔軟に調整することで、住民の暮らしを守る仕組みです。




専決処分とは? 首長が緊急時に行う自治体の決定制度

専決処分とは、本来は議会の議決を必要とする重要な事項を、首長が議会の議決を経ずに一時的に決定する制度です。後日報告・承認が義務付けられており、緊急性や議会招集の困難性などの要件を満たす場合にのみ認められるものとして、地方自治法に定められています。

たとえば、台風や地震で壊れた学校の修繕や、感染症対策や医療体制の強化のように、迅速な対応が求められる場合に適用されます。専決処分を行った場合でも、後の議会でその内容を報告し、議会の承認を受ける必要があります。


専決処分の実例:富山県の能登半島地震対応

富山県の新田八朗知事は、能登半島地震で被災した住民の生活支援や道路・学校の修繕、医療体制の強化を迅速に進めるため、112億2610万円の補正予算を専決処分で決定しました。専決処分によって、議会開催を待たずに緊急対応を行い、後日議会で報告・承認を受ける形が取られました。
この予算には、住宅の被害に応じた生活再建支援や学校の修繕費用、医療体制の整備など、住民生活に直結する支援が含まれています。

富山県/臨時記者会見[令和6年1月12日(金曜日)]




地方自治体の予算編成の流れ

住民サービスを支える! 説得力と実現性を高めるための自治体の予算編成の流れとコツ

地方自治体の予算編成は、地域の未来をつくる大切なプロセスで、年間のスケジュールに沿って進められます。予算を円滑に策定するためには、準備をいかに早く始めるかがポイントです。一般的には、9月頃の予算要求に向け、6〜8月頃から各部門で調整や情報収集を始めるケースが多く見られます。
こうした早めの準備により、住民サービスや地域の課題にしっかり対応できる計画を作り込み、効率的で効果的な予算編成が可能になります。
※政令市・都道府県など自治体によりばらつきがあります。


ポイントは初動! 住民の暮らしを支える予算編成のステップ

地方自治体の予算編成は、地域の課題に対応し、住民サービスを支える大切な作業です。年間を通して段階的に進められ、効率的で効果的な計画作りが求められます。
一般的なスケジュールは次の通りです。4~5月は人事異動などで業務が立て込むため準備は控えます。6~8月には各部門で、来年度に行いたい施策や必要な費用を整理・調整します。たとえば、学校の修繕、医療体制の強化、子育て支援の計画などが検討される時期です。
 
9~10月には財政部門が予算の基本方針や重点施策、増減の目安を示し、各部門はそれにもとづいて予算要求案をまとめます。11~12月には具体的な施策や経費を盛り込んだ予算要求書を提出し、1~2月に財政部門が全体の優先順位や財源とのバランスを考えて調整します。2月に首長が最終予算案を決定し、2~3月に議会で審議・議決され、4月1日から新年度の予算が執行されます。
 
こうした流れを通じて、自治体は道路や学校の修繕、医療体制の整備、子育て支援など、住民の暮らしに直結する施策を着実に実施しています。




地方自治体の予算を獲得するためのポイント

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地方自治体が施策の予算を獲得するには、単なるアイデアではなく、具体的で説得力のある計画が求められます。どの課題を解決し、どのような効果を目指すのかを明確にし、必要な費用の根拠も示すことが重要です。また、関係部局との連携や、自治体全体の計画との整合性を確認することで、施策の実現性や影響力を高めることができます。これらのポイントを押さえることで、より効果的に予算を確保することが可能となります。


1.施策を具体的にする

抽象的なアイデアだけでは予算を得ることは難しいです。「どのような課題を解決するのか」「どのような効果を目指すのか」を明確にし、学校の修繕や医療体制の強化、子育て支援など具体的な事業計画に落とし込みましょう。施策が実現したときの「未来の姿」をイメージできると、より説得力のある提案になります。


2.費用の根拠を明確にする

必要なお金は、ただの概算では説得力がありません。過去の実績や複数の業者の見積もり、類似事業の費用などを参考に、具体的な根拠を示して積算することが大切です。積算の過程をわかりやすく示すことで、提案の信頼性もぐっと高まります。


3.関係部局との連携を強化する

複数の部局にまたがる施策の場合は、早めに関係部局と話し合い、連携体制や費用分担の合意を得ておくことが大切です。早い段階で調整しておくとトラブルを防ぎ、施策の効果もより高められます。部門を超えた協力体制が、施策のインパクトを大きくしてくれます。


4.上位計画との整合性を確認する

自治体の総合計画や個別計画と照らし合わせ、施策の位置づけを明確にしましょう。上位計画に沿った施策は、まち全体の方向性と一致していることを示す強いメッセージになります。こうした整合性があると、予算審査でも有利に働きます。




地方自治体予算編成の成功のポイントは早めの準備

地方自治体が予算をしっかりと作るためには、早めの準備が何より大切です。4月から5月は人事異動や新しい体制への移行で忙しい時期で、6月から8月にかけては部内での作業のピークになります。この期間にしっかり準備を整えておくと、9月から始まる予算提出の際に、提案に「説得力」と「実現可能性」が生まれます。その結果、必要な予算を確保できるチャンスもぐっと広がります。

コツは、段階ごとの流れを意識し、関係部局や上位計画との整合性も確認しながら進めることです。こうした準備が、住民の暮らしに直結する施策をスムーズに実現するカギとなります。

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