村山卓 金沢市長講演【前編】金沢市の「×(かける)文化の視点~」
自治体首長が語るわが街の未来
こんにちは! サイネックスマガジン編集部の島Dです。主に地域行政情報誌『わが街事典』をはじめとした紙媒体の編集をしています。
今回は 一般社団法人「地域から日本を変える」 が主催する首長連続セミナー 第31回「金沢市の村山 卓(むらやま たかし)市長による講演「未来を拓く文化政策の展開~金沢市の×(かける)文化の視点~」(4月9日開催)の前編をお届けします。
同法人は次のような設立趣旨のもと、さまざまな地域創生事業をおこなっています。
地域から日本各地の魅力を引き出し、各地域が日本の国づくりの手本になるよう、その一助となる活動を行いたいと思います。
日本の各地域の自治体の行政活動、自治体と企業の地域づくりへの取り組みの考察の深化と視野拡大を目指し、自治体及び企業等への政策提言、人材育成を通じて、地域経済活性化及び再生を推進、それぞれの地域に合ったまちづくりを目指します。
首長連続セミナーも地域創生事業の一環で、同法人ならびに金沢市のご協力とご理解を得て、セミナー内容を記事にすることができました。改めて感謝いたします。

講演する村山卓金沢市長
2023年に金沢市の将来都市像を策定
こんにちは。金沢市長の村山卓です。
令和5年12月に 金沢市都市像 を策定しました。その趣旨が以下になります。
・各国からの旅行者が地方都市にも多く来訪している実状に鑑みれば、人々は既に国ではなく、都市を選んでいる。
・希有な歴史を有し、独自の発展を遂げてきた金沢が新たな高みへと飛躍するため、市政を取り巻く環境の変化を踏まえ、20年先、30年先の将来をも見据え、おおむね10年後の令和16(2034)年を目標年次とする新たなまちづくりの指針として、金沢市都市像である
未来を拓く世界の共創文化都市・金沢
を策定した。
現在、金沢市の観光客数はコロナ禍前を上回っています。一方で、国内の観光客は減っています。つまり、インバウンドが増えていると。そして彼らは国ではなくて都市として金沢市を選んで来ていると考えています。実は金沢市は文化的に独自の発展をしたまちで、かつ大きな震災に見舞われたこともあまりないまちだという特徴もあります。
市の記録では、2024年の能登半島地震の震度5強が最大の震度で、それより前となると江戸時代中期(1799年)に起きた金沢地震(震度6から6.7ほど)となります。また太平洋戦争でも空襲を受けた記録もありません。
さらに歴史をさかのぼると、加賀一向一揆により、この地の守護大名である富樫氏を加賀から追い出したことがありました(1488年)。以後、織田信長の武将である柴田勝家に敗れる1580年までの90年間、加賀は大名のいない「百姓のもちたる国」でした。これは住民自治を自らが勝ち取った土地であると捉えられ、全国でも稀なケースです。
1583年には柴田勝家の家来である前田利家が金沢城に入城し、加賀藩初代藩主となり金沢の歴史が始まりました。加賀藩は百万石という諸大名の中で最大の石高を有する雄藩になり、その統治は武力を使わずに文化によって治めるというものでした。
そういう歴史を持つまちが、これからの20年先、30年先を見据えたとき、今後の10年間をどういうまちにしていくのかという計画として策定したのが金沢市都市像です。

この5つの基本方針に対して、
①文化を強みに多様な分野への活用
②若い世代、民間事業者、移住者など、地域に関わる多様な人々の視点・活力の活用
③あらゆる分野におけるデジタル化の推進
という3つの横断的な視点を掛け算して取り組んでいきます。
実は金沢市は文化への投資額というと、全国でダントツの1位です。
日本経済新聞の朝刊(2023.11.11)で紹介されたのですが、金沢市は、住民一人あたりの芸術文化事業費が3,034.5円でした。

資料提供:金沢市
このデータからみても、本市がこれまでに文化芸術の振興にどれほど注力してきたのか、また、市民がそのことに対し理解を示し、求めてきたのかが、見てとれるかと思います。
それでは今回の将来都市像における文化政策について説明していきましょう。
×(かける)文化の視点でまちづくりを考える
金沢市の文化政策のポイントは「×(かける)文化」という視点です。現在、全国的に文化やスポーツによるまちづくりがテーマとなっています。しかし、急にそういうことを言いだしても、市民の方々にしてみれば「それよりも家の前の道路をなんとかしてくれ」という要望があったりして、文化に対する予算を作るのが難しいという意見がたくさんあります。
しかし、金沢では文化政策を一定程度の理解を得ているという前提で政策を進めることができました。
金沢市の「×(かける)文化」とはどういうものでしょうか。
上記の基本方針の①から⑤にあたる「魅力づくり」「暮らしづくり」「人づくり」「仕事づくり」「都市づくり」から説明していきます。
魅力に文化を×(かける)
まず必要なのは、金沢市の魅力である文化の力を伝えることです。魅力に文化をかけることの第一は、文化に関わる人材を作り、その人材を紹介できるシステムを作ることです。
それが市民の文化芸術活動に関する相談等のワンストップ相談窓口である「アーツカウンシル金沢」です(2024年7月開設)。

資料提供:金沢市
これはあらゆる世代に対し、多様な文化芸術に触れる機会を提供するというもので、窓口に相談すると、登録していただいた音楽家、美術家、工芸家の方々を相談支援業務にあわせて市内の保育園、幼稚園、公民館などの施設に派遣します。これによってより市民のニーズにあった文化芸術に触れあえる機会を提供できるようになります。
ほかにも、市民や来街者がまちなかで気軽に文化芸術を体感できるまちにしていこうということで「まちかど文化芸術プログラム」を推進しています。
また、2024年には北陸新幹線金沢・敦賀間が開業しました。金沢市を拠点に約1時間圏内で北陸主要部への行き来ができるようになりました。持続可能な観光を推進していくためにもオーバーツーリズム対策をしていかなければなりません。そこで、まず金沢市のオーバーツーリズムは何かということをしっかりと捉えた上で、住民の生活と調和を目指す「次期持続可能な観光振興推進計画」を策定していきます。
例えば、旅行者に向けた啓発動画を作成し、金沢駅構内のデジタルサイネージで放映するほか、観光地の美化を推進するため、店舗等の協力によりごみの引き取りを行うモデル事業を実施する予定です。
ほかにも金沢市の文化の情報発信を強めていくとともに、施設の運営や設立、改築なども行っています(後編参照)。
暮らしに文化を×(かける)
安心して暮らせる地域社会の実現、また健康都市の推進に向けて、文化芸術資源をかけて心身を良好な状態につなげるということも考えています。
2025年度には、芸術ホールに行くのが難しい方々に対しても音楽や芸術を届けていこうと、前述のアーツカウンシル金沢のスタッフに福祉分野専門のディレクターを配置しました。福祉が必要な方々に対して音楽、芸術に触れてもらうことが、回復あるいは幸福感に対していい影響を与えていくのではという考えに基づいたものです。
また、未病対策や災害対応の視点を取り入れた施設を整備します。未病とは、病気の前段階あるいは半健康な状態で、その対策ができていると入院日数を減らしていくことができるというデータがあります。
つまり、未病対策は医療費削減につながるのです。そして医療費の削減を文化のひとつの役割として使っていくことができれば、金沢市の財政にとっても貢献ができると思っています
そこでもともと市民の皆さんの健康づくりを支援する総合拠点である 金沢健康プラザ大手町 を再整備して、未病対策にも取り組んでいける施設にしていきます。
人づくりに文化を×(かける)
人づくりに文化をかける視点としては、教育と子育て支援が中心になります。
小学生に対しては3年生から和菓子作り体験(3年生)、金沢21世紀美術館(4年生)、観劇教室(5年生)、連合音楽会(6年生)を行っています。中学生に対してはオーケストラ鑑賞会(1年生)、市指定無形文化財である金沢素囃子の鑑賞会(2年生)、観能教室(3年生)を行っています。
子どものころから本物を体験し、自らの教養を身につけてもらうことが、その後の人生に対して役に立っていくという考えからです。若いころから本物の文化教養を身に着けることによって、健康状態が良くなっていくとか、学力を保っていくという意識作りにもつながると思います。

写真上:オーケストラの鑑賞会/写真下:金沢素囃子の鑑賞会(資料提供:金沢市)
未就学児に対しては児童館、児童クラブに対しては体験学習やワークショップ等の実施やアーティストの派遣をします。これはテレビやインターネットでの「間接体験」が増える中で、 実際のモノ・ヒトに触れる「直接体験」をしてもらうことで、子どもの感性・興味・関心を高めていきたいとの思いからです。
そして保育所等には「創造アート×子ども」、「楽しい音楽×子ども」という2つのプログラムを作り、それを各園に選んでもらって文化芸術の楽しさを体験してもらう情操教育事業を行っています。
「創造アート×子ども」コースでは工作や陶芸体験など、「楽しい音楽×子ども」コースでは社交ダンスや楽器体験などを実施してもらいました。実施した園も令和6年度には市内対象園146施設中100施設にのぼりました(令和5年度は90施設)。
教育と子育てについて金沢独自の文化芸術の視点を取り入れ、子どもだけでなく親にも参加していただくことで、「金沢で子育てして良かった」と思えるような環境を作っていきたいと思っています。
仕事づくりに文化を×(かける)
仕事づくりに文化をかける視点としては、金沢市が文化的で幸せな豊かな生活ができ、そして子育て環境に恵まれたまちであることを知ってもらうことだと思っています。
コロナ禍になり、どこで仕事をしても構わない、あるいは本社には月1回来ればいいようなリモートワークができる会社も増えているように思います。
その際に、金沢市に拠点を持つという選択肢を持っていただく。市内にはリモートワークができる場所もたくさんあります。北陸出張の拠点として、さまざまな補助金を利用して新しい仕事を作ろうとか、いろんなことにチャレンジしたい人たちを応援します。
また、1996年に金沢職人大学校(https://k-syokudai.jp/)という学び直しの大学を開校しました。伝統的建築技術を教える全国唯一の研修施設です。今回の大地震で建物や寺社などが崩れてしまいましたけれども、職人大学校を出た職人の技術を活かしていくこともできるようになりました。
都市づくりに文化を×(かける)
都市づくりはこれらすべてのまとめです。文化をかけて魅力を高め、暮らしの質を高め、人材を育て、仕事を作り出す。その結果、金沢市は未来を拓く世界の共創文化都市になっていくのかなと思っています。
次回の「村山卓 金沢市長講演【後編】」では、文化力を高めていったまちづくりの実例を紹介していきます。
※「後編」の記載がある部分は、後編記事へのURLリンクを設定します。