私たちの地域を活性化するには~官民協働プロジェクトのススメ~
中央集権体制の限界
東京圏に集中するヒト・モノ・カネ・情報
国土交通白書2020によると、東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県及び千葉県)の人口が総人口に占める割合は、1990年に25%を超え、2018年には29%と、総人口の3割近くの人が東京圏で生活している状況となりました。
これがいわゆる「東京一極集中」と呼ばれる現象です。地方から東京圏へ人口が流出し、地方の人口が減っていくだけではなく、人の移動とともに産業・情報・資金なども東京圏に集中。ヒト・モノ・カネ・情報をブラックホールのように東京圏が飲み込んでいくことで、日本経済や国土の構造のバランスが崩れてしまいました。
中央集権か、地方分権か
過度な集中は、経済成長の限界を生みます。日本が持続的に発展していくためには、東京圏だけが発展するのではなく、日本全体が活力(人や情報)と経済力(資源や資金)を蓄えて動いていく必要があります。そこで生まれたのが「地方分権」です。
時間を遡ると、日本には地方がそれぞれ力を持ってきた地方分権的な歴史があります。たとえば江戸時代には、多くの藩が日本各地を治め、幕府がそれらの藩をまとめて全体の利害を調整してきました。明治維新によって国のあり方が一新されて以降の中央集権的な体制は、全体が一つの目標に向かう強いムーヴメントを起こすには適しており、結果日本は大きな発展を遂げることになりました。しかしそこに限界が見えた時、再び地方分権の考え方が現れるのは自然なことでしょう。
現代の「地方分権」は、国が持っている地方に関する決定権や資金を地方に移して、地方が主体的に行動できるようにすることを意味します。これにより、地方は活力と経済力を取り戻し、自主的かつ自立的に運用できるようになるはずでした。
しかし皮肉なことに、既に人や産業が流出してしまった地方はゼロではなくマイナスからのスタートを余儀なくされることとなりました。
「地域活性化(地域再生)は誰がするものなのか」
地域活性化とは、「地域が潤う仕組みをつくる」ことです。地方自治体にとっては、「地域を再生する」という表現が正しいかもしれません。流出した人や経済を呼び戻すこと、新たに流入を促すこと、住民を守ること、次世代を育てること、資金を調達すること…やらなければいけないことが無数に存在します。
これらをすべて自治体だけが背負うのは現実的とは言えないでしょう。
また地域で暮らす人・働く人も、傍観していていいのでしょうか。自分たちに関係の深い地域のことですから、まず「自分ごと」としてとらえ、解決のために協力していくべきなのです。
つまり、地域がかつてのようなにぎわいを取り戻していく、または地域全体を新たに活性化していくためには、行政だけではなく、地域を構成するすべての人が一緒になって動く必要があります。
それが今回ご紹介する「官民協働」という考え方につながっていきます。
「官民協働」について知っておこう
「官民協働」とは
「産学連携」や「産学官連携」という言葉を聞いたことはないでしょうか。「産」は民間企業、「学」は大学などの教育・研究機関、「官」は国や自治体を指します。「公・民・学」という言い方をすることもあります。
「官民協働」とは、文字通り「官」と「民」が協力して働くことを意味します。もう少し説明を加えると、自治体と民間企業が協力して、地域課題の解決や住民の利便性向上などを目指して事業を進めることです。自治体によっては「公民連携」と位置づけているところもあります。
「官民協働」の仕組みと特長
地域の活性化・再生が地域を挙げての取り組みであることは前述した通りです。プロジェクトとしてこの課題に取り組むとき、官と民の役割は明確に分かれます。
まず、活性化・再生に向けてのアイデアや企画は「学」や「民」で構想します。資金とマネージメントは「民」が提供し、「官」はそれらをコーディネイトしたり、アレンジしたりします。一番の特長は、税金を使わないこと。官民協働プロジェクトは、うまく活用できれば税収を上げられ、財政の立て直しにも寄与できる可能性を秘めています。
官民協働プロジェクトのメリット
コストの削減:
「民」の効率的な運営方法やノウハウを活用することで、公共サービスの提供コストを削減することができます。
資金調達の多様化:
「民」の資金を活用することで、必要なインフラやサービスを継続的に提供することができます。
活動領域の拡大:
「民」の専門知識や技術を活用することで、「官」だけでは手が出せなかったプロジェクトを進めることができます。
品質向上:
「民」の競争力を活かし、より高品質な公共サービスを提供できるようになります。
地域活性化:
「民」と共にプロジェクトを進めることで、新たな雇用機会の創出や地域経済の活性化につながります。
「民」にも、官民協働プロジェクトを実施することで、新しい商材・サービスのヒント、対外的な信頼性、社会貢献へ寄与することのやりがい感など得られるものが多くあります。
官民協働プロジェクトの注意点
一見、いいことしかなさそうな官民協働プロジェクトですが、実際に進める場合にはいくつかの注意点があります。
モチベーションの維持:
自治体としてプロジェクトの重要度が高ければ高いほど、内部調整や意思決定に時間がかかるのは自明のことです。そのため、官民協働プロジェクトにかかわる自治体担当者は、根気強く向き合い、努力することが求められます。
情報公開:
プロジェクトの進行や成果に関する情報を、内外にしっかり伝えていく必要があります。関係者や住民からの信頼と協力を継続的に得るために、これは押さえておかなければいけないポイントです。
協働の理解:
「官」と「民」では、スピード感や価値観が異なります。プロジェクトを進めるにあたって、各担当者がお互いに理解を深められるようコミュニケーションを取り、良好な関係を築きましょう。
官民協働プロジェクトで最も大事なこと
少子高齢化・人口減少が進む中、多くの地方自治体が財源確保に悩んでいる状況です。
財政悪化が進めば、将来的に必要な行政サービスが受けられなくなる可能性が考えられます。これは単なるカネの問題ではありませんし、自治体職員だけの問題ではありません。私たち一人ひとりもまた、どこかの自治体の住民だと考えれば決して無関係なことではないと理解できるでしょう。
官民協働プロジェクトで最も大事なのは「私たちの地域を活性化したい」「地域に貢献したい」という心構え。多くの人が「自分ごと」と考えれば、それだけ協力してくれる人が増えていきますから、ぜひ熱意を持って取り組んでください。