花火大会中止はなぜ増えているのか?自治体が抱える課題と取り組みを徹底解説

近年、夏の風物詩である花火大会が全国各地で中止に追い込まれるケースが増えています。理由は、悪天候だけでなく、物価高騰、近隣からのクレーム、人手不足、協賛金不足など、その背景にはさまざまな要因が関係しています。とくに地方自治体にとっては、地域活性化の核となるイベントの存続は大きな課題といえるでしょう。
本記事では、なぜ花火大会の中止が増えているのかを深掘りします。さらに、花火大会を持続可能な形で開催していくために、全国の自治体や実行委員会が実際に行っている取り組み事例を紹介します。
花火大会の中止が増えている背景

2025年の夏、すでに多くの地域で花火大会の中止が決定されています。中止となった花火大会の正確な集計情報はありませんが、ある調査によると、2025年7月時点で28の会場で中止が確定していました(2025年7月17日現在)。
中止の理由はさまざまです。
たとえば、2025年5月4日に予定されていた陸前高田市の「三陸花火大会」は、資金の確保が難しいという理由から中止になっています。
ここでは、花火大会を中止せざるを得なかった要因について紹介します。
資金不足と物価高騰
花火大会開催にあたり課題となるのが運営資金の確保です。コロナ禍明けの2023年は、4年ぶりの花火大会を期待する人も多かったと思われます。しかし、資金が集まらなかったり、花火や会場設営にかかる費用や人件費の高騰により中止となったりした花火大会が全国各地でありました。
とくに人口規模の小さい地域では、資金不足は深刻な課題です。人口約7,000人の千葉県御宿町で開催されていた「おんじゅく花火大会」は、新型コロナの影響から地域経済が回復していなかったり、人件費が高騰したりといったことで運営資金を集めるのが難しいと判断されました。
協賛企業の融資や住民の寄付でまかなっていた地域でも、思うように協力が得られなかったというケースも少なくありません。
松江市の「松江水郷祭」は、主催団体が開催費用を試算したところ、コロナ禍前と比べて総額で3,000万円も増加することが判明しました。内訳を見ると、花火の打ち上げにかかる費用として、火薬や包み紙などの原材料代、船による運搬費用などの費用が約1.5倍、会場の仮設トイレやゴミの処理といった環境整備に約1.8倍となりました。加えて、警備費用が約2.6倍にまで高騰したようです。
人手不足
人手不足が原因で花火大会の中止や規模を縮小した地域も少なくありません。
千葉県・鴨川市で開催されてきた「納涼花火鴨川大会」は、安全対策のための警備員の確保が難しく、2023年の中止を余儀なくされました。
2023年に全国で花火大会の中止を決めたのは49件でした。開催場所の自治体の人口規模を見ると、全体の7割程度は人口5万人以下の市町村が占めていたようです。 警備員を自分たちの地域で確保できない場合、他県から派遣してもらうことになり、交通費や宿泊費などさらに費用がかかってしまうことにもなるのです。
住民のクレーム
地域の住民からの苦情によって中止されるケースもあります。
徳島県鳴門市の納涼花火大会では、2023年の開催後に「花火の燃え殻が屋根に落ちてくる」「燃え殻でマイカーに傷がつく」といった苦情が主催者に届き、2024年は場所を変更しない限り同じことが起きると想定して中止となりました。
埼玉県の「狭山市入間川七夕まつり」でも似たような苦情が2023年開催後に寄せられ、こちらも2024年は中止されています。
花火大会の開催には、規模や場所の検討だけでなく、地域住民の理解も必要になるのです。
資金不足を解決するための資金調達方法のポイントと注意点

花火大会の開催には資金不足の課題解決が重要になります。ここではどのような資金調達の方法があるか、それぞれのポイントや注意点を紹介します。
ガバメントクラウドファンディング(クラウドファンディング)の活用
ガバメントクラウドファンディングとは、自治体がふるさと納税制度を活用して行うクラウドファンディングのことです。ふるさと納税最大のメリットである、寄付者の実質的な負担を少なくしながら地域貢献できるというアピールが可能です。
成功のポイントは、魅力的な返礼品や共感される背景を伝えることです。返礼品には、地元特産品はもちろん、花火大会の特別観覧席や、打ち上げ体験などの体験型、ここでしか手に入らない大会オリジナルの記念品などが寄付者にとって魅力的でしょう。また、募集ページでは開催が危ぶまれている背景をしっかり説明し、集まった資金が何に使われるかを明確に伝えることが大切です。
ガバメントクラウドファンディングを行う際、いくつか注意点があります。体験型リターンは、当日の運営体制や安全管理を考慮した上で実現の可能性を検討しておく必要があります。また、通常のクラウドファンディングより寄付金を集めやすい一方、寄付の受付、返礼品の管理・発送、寄付金受領証明書の発行、ワンストップ特例申請対応など、ふるさと納税に関する多岐にわたる複雑な事務処理が発生することも把握しておかなければなりません。
観覧席の有料化
近年の花火大会では、観覧席を有料化する地域が増えています。一方的な寄付ではなく参加者から直接協賛金を集めるため、導入しやすい方法といえるでしょう。
2023年7月〜9月に開催された全国の花火大会のうち、動員客数が10万人以上の106大会において有料席の導入状況について調査したところ、主要な花火大会の約7割が有料化されたことがわかりました。
有料化するときの注意点として、住民の理解を得ることが重要になります。これまで無料で観覧できた場所が有料化されると、住民からの反発が予想されるため、事前に説明の場を設ける必要があります。主催側は、有料化する分、安全対策のための警備や設備の費用もかかったり、席の割り振りを検討したりといった検討事項も増えることになります。
デジタル技術の活用
デジタル技術を活用した取り組みも、企業協賛を得たり一般観覧客を増やしたりするための方法として注目されています。たとえば、デジタルサイネージの導入やオンラインでの協賛金募集、SNSを活用したプロモーションなどがあります。
花火のライブ配信やSNS投稿による拡散によって、これまで花火大会に関心がなかった層へのアプローチができます。協賛企業のロゴを動画に配置することで、宣伝効果アップをアピールして協賛企業を獲得しやすいというメリットもあります。
注意点として、Webサイトやアプリの開発、ライブ配信機材の調達、デジタルサイネージの設置など、デジタルツールの導入には初期費用がかかります。また、コンテンツの更新、システムの保守、データ分析など、運用にもコストが発生します。
資金不足を解決して花火大会を開催した成功事例

先に紹介した資金調達方法を活用して花火大会の開催に成功した事例を紹介します。
新潟県長岡市「長岡花火大会」
新潟県長岡市の長岡花火大会は、日本三大花火の1つですが、2022年から全席有料化になりました。その背景には、コロナ禍前の2019年の大会で、2日間で50万人以上が来場し、無料エリアに人が押し寄せて川に落ちそうになったり、私有地に無断で観光客が居座ったりするといったトラブルの発生がありました。
有料席のチケット代は年々値上がりしていますが、2023年は約30万席が完売でした。これに対し主催者は、地元民の利用も意識して特別価格のチケットを用意しました。また、地元民向けの販売時期を早めて優先的な販売を行っています。これまで無料で観覧していた住民にも有料化が受け入れられるような配慮をしたことが、全席有料化に成功した要因といえるでしょう。
島根県松江市「松江水郷祭」
2024年の松江水郷祭は、クラウドファンディングとガバメントクラウドファンディングの両方を実施して開催されました。2025年も引き続き両方にチャレンジして開催を進めています。
ガバメントクラウドファンディングは、松江市外在住の方々へ発信する場合、税額控除や地域の返礼品をアピールすることで、寄付意欲を高める方法が有効です。クラウドファンディングでは、返礼品としてオリジナルグッズや有料観覧席を準備し、住民へのアプローチも行っています。これら2つの相乗効果が成功要因の1つといえるでしょう。また、SNSやWebサイトを通じて、ガバメントクラウドファンディングの実施について積極的な情報発信も行っています。
滋賀県「びわ湖大花火大会」
有名な花火大会になると公式サイトを設けているケースが多くなります。
滋賀県のびわ湖大花火大会では、公式サイトでの協賛企業紹介やライブ配信、有料観覧席のオンライン販売が行われています。琵琶湖で打ち上げられるきれいな花火が動画のデジタルコンテンツとして流れているところも、実際に観覧したいという気持ちにさせるのに効果的です。
魅力的な映像はSNSでも拡散されやすく、一般客の増加に効果的だといえるでしょう。
花火大会の資金調達のためにできることから始めよう
近年の花火大会中止が増えている背景と対策について紹介してきました。悪天候などの不可抗力な原因の場合もありますが、天候以外では資金不足が深刻な課題であることがわかりました。
資金調達のためには、クラウドファンディングや有料化、デジタル技術の活用などの方法があります。まずは取り入れられそうな方法から検討してみてはいかがでしょうか。
サイネックスは「官民協働」をテーマにさまざまな事業を地域で展開してきました。その1つが「情報メディア事業」です。地域行政情報誌「わが街事典」やデジタルサイネージ「わが街NAVI」、シティプロモーションサイト「わが街ポータル」は、自治体が運営する媒体に地域企業が広告費を拠出し、運営発行コストを圧縮する形をとっています。官民協働でメディアを運営し、持続可能な方法で地域住民の皆様に受け入れていただいています。
サイネックスの情報メディア事業