耕作放棄地を活用する方法とは? 取り組みの成功事例も紹介

近年、日本各地で進む農業人口の減少や高齢化により、遊休農地が増加している現状があります。遊休農地を放置していると、さまざまな地域への悪影響が懸念されます。そこで、遊休農地の活用や農地転用に積極的に取り組み、地域資源の再生につなげようとする自治体も増えています。
本記事では、遊休農地を活用した実際の事例を紹介しながら、どのような施策が有効なのかを解説します。
遊休農地・休耕田とは
農地として活用されていない土地には、いくつか種類があります。遊休農地や休耕田、耕作放棄地、荒廃農地など、よく似た言葉でありながらどのような違いがあるのかを紹介します。
遊休農地・休耕田の定義
遊休農地とは、過去に農地として利用されていたが現在は使われておらず、かつ将来的にも耕作される見込みがない可能性が高い土地、もしくは農地ではあっても周辺の農地と比べて利用の頻度が極端に低い土地のことを指します。
休耕田は、農業において耕作を休止している田畑を指す言葉です。農地の機能を有するものの、一時的または長期にわたって作物が栽培されていない土地を指します。
耕作放棄地や荒廃農地との違い
耕作放棄地や荒廃農地は、遊休農地と類似した言葉ですが、微妙な定義の違いがあります。
耕作放棄地とは、土地の所有者が1年以上作付けなどをせず、将来的にも耕作される見込みがないとされた土地です。
一方、荒廃農地とは、現在は耕作が行われず、荒廃してしまった状態で、通常の農作業では耕作が不可能と判断された農地のことです。
遊休農地という言葉は農地法で定められたもので、農業委員会によって区分され、耕作放棄地や荒廃農地であるかどうかは、農林水産省の調査によって判断されます。
遊休農地の活用に取り組むべき理由

遊休農地を放置していることは、さまざまなデメリットがあります。ここでは、地域へどのような悪影響が考えられるかを解説します。
食糧自給率の低下
日本はもともと自給率が高くはなく、食糧を輸入に依存する傾向があります。遊休農地が増加すると、現在約40%に低迷している自給率のさらなる低下につながる恐れがあります。
また、輸出国が輸出制限を行った場合に、食糧の確保が困難になることや、輸入された食糧の安全性や品質に問題があったときに消費者の健康に有害となる恐れがあります。
遊休農地の増加は、日本の食糧問題に重大な悪影響を与えるかもしれないのです。
農地の価値の低下
農地を耕作するための管理を怠ると、雑草が蔓延したり、害虫や害獣が群がったりして、環境や景観の悪化につながります。また、近隣の耕作中の農地へ被害が及ぶ場合もあります。
遊休農地が放置され、荒廃農地となってしまった場合、農地としての機能の低下だけでなく再利用が困難になるリスクもあります。
農地の手入れにはコストや時間がかかるため、遊休農地をなんらかの形で活用することが重要です。
災害時のリスク増加
管理された農地は、災害時のリスクを低減する役割もあります。たとえば、水田や水分を含みやすい畑地の土壌は、雨水を一時的に保持し、洪水や土砂崩れをせき止めます。
管理されていない遊休農地が増えると、災害時のリスクの増加につながります。地域の安全を守るためにも遊休農地を増やさないことが重要です。
ごみの不法投棄や防犯の問題
遊休農地がごみの不法投棄に使われることもあり得ます。放置しておくと、さらにごみが捨てられる可能性もあるため、不法投棄の取り締まりや、ごみの回収のために多くの手間とコストがかかってきます。
市街地に近い遊休農地の場合、防犯上の問題も懸念されます。犯罪や火災などに対するセキュリティ対策も必要になるでしょう。
遊休農地を活用する方法

遊休農地を活用する方法は、大きく「農地としてそのまま活用する方法」、「農地転用して農地以外に活用する方法」の2つに分けられます。ここではさまざまな遊休農地の活用方法を紹介します。
農地バンクを利用して農家に貸し出す
農地をそのまま農家に貸し出すことは、農業委員会の許可がもっとも下りやすい遊休農地の活用方法です。
農地の買い手を探し出すことは難しい場合もあるため、農林水産省が提供している「農地バンク」(正式名称:農地中間管理機構)を利用するのがよいでしょう。
農地バンクは、農地を貸したい人と借りたい人の間に立って仲介をする役割を果たします。貸し手と借り手双方にメリットがあります。
貸し手のメリット
・借り手はしっかりした基準で選ばれ、農地バンク経由で賃料が確実に振り込まれる
・農地は貸付期間終了後に必ず返却される
・契約した借り手が耕作できなくなった場合は、農地バンクが新しい借り手を探してくれる
など
借り手のメリット
・複数の農地を借りる場合も、契約や賃料支払先を農地バンクに集約できる
・分散した農地を交換してまとめられる
など
市民農園にする
近年、遊休農地を市民農園として再生させる取り組みが急増しています。市民農園とは、農家以外の一般の人々に、自家用の野菜や花を栽培するために貸し出される農地のことです。
たとえば、都市市民が週末に日帰りで、気軽に農園に足を運んだり、宿泊してじっくりと農作業を体験できたり、野菜作りを楽しめたりできます。このように、趣味や休暇のレジャーとして農業を楽しめる魅力がある市民農園が注目されています。
農地を売却する
農地を売るには、農業委員会の許可が必要です。また、遊休農地を売却する際は、農地をそのまま農地として農家に売却する方法が基本となります。そのため、農地を購入できるのは、農業委員会に許可を得た農家や農業従事者などに限られます。
現実は後継者不足などの理由から、なかなか買い手が見つからないことが多く、農地の売却は難しいともいわれます。
農地転用して農地以外の活用
農地転用とは、農地を農地以外の土地に変更することですが、以下の条件に当てはまる農地は、生産性の高い優良な農地とみなされるため、転用はできません。
1. 農用地区域内農地
2. 甲種農地:農業公共投資後8年以内の農地、集団農地で高性能農業機械で営業可能な農地
3. 第1種農地:10ヘクタール以上の集団農地、農業公共投資対象農地、生産性の高い農地
遊休農地を転用する場合、以下の活用方法があります。
・アパート・マンション等の賃貸住宅経営
・駐車場経営
・高齢者向け施設用地
・太陽光発電
・資材置き場
なお、農地転用を申請する際は、目的が具体化しており、資金調達や事業計画などをもとに、実現性があると判断されたものでないと転用許可が下りない点に注意しましょう。
遊休農地の活用事例

全国各地で遊休農地を活用する取り組みが行われています。ここでは、遊休農地を活用した成功事例を紹介します。
宮崎県日向市
日向市では、人口減少・少子高齢化により平成22年から令和2年までの10年間で総農家数は約26%減少し、とくに日向特産の果樹「へべす」は生産者の高齢化による未管理園地の増加、小規模園地の散在が問題となっていました。
そんな中、地域貢献したいという思いをもった地元建設会社が、「へべす」生産に参入し、令和元年に農業法人を設立。令和4年には農地利用最適化推進委員や農業者代表と協力し、ほとんどが遊休農地であった園地を3年かけて整備しました。また記念植樹祭や収穫祭などのイベントを開催し、地域の方々との信頼関係も築いています。現在は、海外輸出や加工品の商品開発なども検討しています。
地元企業と農家、住民が一体となって活動を行っている点が、遊休農地解消に成功している要因の1つといえるでしょう。
へべすの魅力 – 日向市ホームページ – HYUGA CITY
山梨県山梨市
山梨市では、農地中間管理機構、JAなどと連携し、貸し付けを希望する再生可能な荒廃農地や、経営の廃止・縮小を希望する高齢農家などの農地について、担い手への農地利用の集積、集約を推進しています。
農地中間管理機構が借り入れている農地を対象に、農業者からの申請・同意・費用負担なしで、県などが区画整理などの基盤整備を行う「機構借受農地整備事業」を活用し、担い手のニーズに応じた整備に取り組んでいます。
市が、農地を整備士、農地中間管理機構が担い手に貸し付けることにより、周辺の果樹園での病害虫の被害防止にも貢献しています。
市が担い手の要望やニーズを把握し、農地中間管理機構を活用できている点が荒廃農地の解消に成功しているといえるでしょう。
農地の貸借は、令和7年4月から農地中間管理機構を通した貸借に一本化されます – 山梨市公式ホームページ
沖縄県宜野座村
宜野座村は、農業がさかんな地域である一方、耕作者の高齢化に伴う離農により、以前はマンゴーを栽培していた農地が耕作放棄地となっていました。そこで、市町村から認定された認定農業者が利用権設定を行ったことで賃借が可能となり、農地の再生が実施されることになりました。
この認定農業者は、Uターンをきっかけに農業をはじめ、きゅうり、ゴーヤーの栽培を開始し、規模拡大のため、荒廃農地となったマンゴーハウスを借り受け、農地を再生しました。さらに村の農業後継者育成センターの指導委員として若手農業者の育成を行い、研修の場として若手農業者の見学などを受け入れています。
自治体と農業者が連携して荒廃農地をうまく活用し、農業経営だけでなく若手就農者の育成にも貢献しており、地域発展も期待できるでしょう。
令和7年度宜野座村農業後継者等育成センター研修生募集について|宜野座村 | 水と緑と太陽の里
遊休農地の活用の可能性を検討してみましょう
遊休農地を活用する方法は多岐にわたります。農地をそのまま農地として活用する方法、または農地以外に活用する方法のどちらに取り組めるかを検討し、今回紹介した事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。