大阪・関西万博から学ぶ!大規模イベント開催における留意点とは
2025年4月13日から「大阪・関西万博(EXPO 2025)」が開催されました。会期は6カ月間(4月~10月)で、約150の国と地域が参加しました。想定来場者数は約2,820万人と見込まれて大きな注目を浴びた、東京五輪後の日本における一大イベントです。その一方で、万博がスタートしてからは、準備の段階で指摘されていた建設遅延や予算超過といった問題だけでなく、開催中にも新たなトラブルや不具合が報じられました。
本記事では、準備段階から開催期間中に生まれた課題を整理し、自治体が事前に把握・対策すべきポイントをまとめています。大規模なイベントを実施する際にどのような準備と対応が必要かを考える一助となれば幸いです。
大阪・関西万博(EXPO 2025)が生み出した効果と受けた批判
大阪・関西万博(EXPO 2025)は2025年4月から10月まで大阪市で開催されました。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。約150の国や地域が参加しており、1970年の大阪万博、2005年の愛・地球博に続く、日本で3回目の大規模な国際博覧会となりました。
EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
経済効果は集計中だが計画では2.9兆円を見込む
実際の経済効果については万博終了後の総括を待つ必要がありますが、2024年3月に経済産業省が発表した資料によると、総額で2.9兆円の経済効果が見込まれるとされています。経済効果試算時の前提条件は、会場建設費が2,350億円、入場者数想定が2,820万人、建設投資が3,537億円、運営・イベントが3,490億円、来場者消費 7,050億円というものとなっていました。
9月20日時点での来場者数(4月13日の開幕以降の累計)は、一般来場者で約2,052万人、関係者を含めた総来場者が約2,344万人となっており、おおむね入場者数想定は計画値に近いものとなっているようです。
大阪・関西万博経済波及効果再試算結果について|2024年3月 経済産業省 商務・サービスグループ 博覧会推進室
来場者数と入場チケット販売数について|EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
財政負担の肥大化に対する批判
大阪・関西万博(EXPO 2025)の建設費は、計画当時は1,250億円と見込まれていました。しかし一度目の増額で1,850億円、二度目の増額で2,350億円まで上振れしました。結果的に計画から1.9倍の建設費上昇となり、大きな批判を受けることになりました。
建設費上振れの主な原因は設計デザインの変更や暑さ対策にかかる費用の計上とされています。しかし、費用負担は大阪市や国、経済界が担うものとなるため、関係各所から見通しの甘さについて厳しい指摘や追及を受けることになりました。
西村経済産業大臣の記者会見の概要|METI/経済産業省 2023年11月2日
博覧会協会における運営費予算執行管理について|公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
準備段階での主な課題~万博の事例から学ぶ~
大阪・関西万博(EXPO 2025)のような大規模な国際イベントの開催はまれです。経済的な負担増が批判の的になりがちですが、他にも大阪・関西万博(EXPO 2025)から学べる課題があります。大阪・関西万博(EXPO 2025)の準備運営に対する振り返りは、今後運営委員会などが進めていくことになりますが、ここでは一足早く、準備段階における課題や改善策を考えてみましょう。
建設費用の予算超過
大阪・関西万博(EXPO 2025)の準備期間、夢洲IR開発や大阪市内中心部の再開発が複数進行しており、これらの大規模プロジェクトが同時期に集中することで、建設業界に大きな負荷がかかりました。また、物価高やウクライナ情勢に伴う資材価格の高騰を背景に、建設費用は計画当初から大幅に増加しています。また、建設業界の長年の課題である熟練技能者の高齢化や若年層の入職者減少による人手不足は、人件費の高騰にもつながりました。
建設費の肥大化はこれまでに度々発生しており、東京五輪などでも大きな問題になりました。原因として、過度な低価格競争があげられます。低価格で業者が落札し、その後さまざまな理由をつけて増額要請する流れです。これは業者側に問題がありますが、行政側にも入札競争の設計や進捗管理の不十分さといった問題があります。
対策としては、資材や人件費などに合わせて柔軟に価格を調整できる仕組みの導入や、落札した事業者の進捗に連動した迅速性評価の導入、業者をスコアリングして万博以降の公共入札の評価指標とする仕組みの導入などが考えられます。
住民合意形成の難しさ
大阪・関西万博(EXPO 2025)の開催が迫っている時期、共同通信社が2025年3月23日に発表した世論調査によると、大阪・関西万博(EXPO 2025)に「行きたいと思わない」が7.5割程度で、「行きたいと思う」の約2.5割を大幅に上回っていたようです。大規模な国際イベントでは多額の税金が投じられるため、その正当性は、限られた層ではなく社会の大多数による支持が必要不可欠になります。
1兆円を超える予算が投じられているにもかかわらず、過半数の賛同が得られていなかったことは、「開催機運」と「合意形成」に失敗していたと考えられています。大規模なイベントにおいては徹底した情報公開が重要になります。費用構造や施策決定のプロセスを視覚的に開示したり、大規模イベントに投資した設備の将来的な用途などを公開したりして、負担者に広く納得してもらう努力が必要になります。
人材確保
大阪・関西万博(EXPO 2025)の会場内には多くの飲食店が出店されますが、開幕まで100日時点では、運営スタッフの確保に苦戦するところも出ていました。また、万博会場の外の飲食店の人手不足はさらに深刻になっており、期間中は来店客の増加が見込まれるため、関西以外からの人材や外国人の採用も検討が必要になりました。
これからの日本において、外国人採用は大規模イベントにかかわらず推進していかざるを得ないテーマといえます。先行している企業から事例を学び、外国人とうまく共存できる職場づくりや、安心して仕事を任せ・任せられる職場環境づくりが必要になります。
多言語化・多国籍化対応
インバウンド対策として多言語化対応はもはや「選択肢」ではなく「必須要件」となっています。大阪・関西万博(EXPO 2025)でも、世界中から多様な国籍の来場者が訪れることが見込まれるため、案内表示やメニュー、パンフレットなどの多言語対応は必須でした。
さらに、言語面のサポートだけでなく、文化や商習慣の違いにも配慮した多国籍化対応も重要です。その一例として、多様な決済環境の整備が挙げられます。
海外ではクレジットカードだけでなく、モバイルウォレットやQRコード決済など、地域ごとに主流の決済手段が異なります。これらを積極的に導入することで、訪日客の利便性が向上し、スムーズな購買体験が可能になります。
結果として、顧客満足度や再訪意欲の向上につながり、地域全体としての経済効果も期待されます。
開催期間中に起きたトラブル
大阪・関西万博(EXPO 2025)では、開催期間中にもさまざまなトラブルが発生しました。
交通トラブル
万博開催中の2025年8月13~14日にかけて発生した鉄道トラブルにより、来場者の滞留や帰宅困難者が発生しました。その結果、以下の課題があげられています。
• 状況や来場者が取れる選択肢について、来場者目線で欲しい情報をタイムリーに発信できなかった
• 会場内アナウンスが聞こえにくいとの意見があった
• 最初の場内アナウンスが英語では流れなかった
鉄道などの交通トラブルはタイムリーかつ頻繁に情報を発信することや、国際イベントでは複数言語での情報提供が大事であることがわかります。このトラブルにより、公式アプリやSNSなど複数の方法で最新情報を発信するといった対策もかかげられました。
チケットサイトの不正アクセス
開幕当初から公式Webサイトや公式アプリの使い勝手の悪さやサーバーの問題が指摘されていました。また、チケットサイトに接続しにくい状況により、パビリオン予約のために不正アクセスされる問題も浮上しました。
これに対し公式Webサイトでは、対策をしているものの、タイミングによってチケットサイトに接続しにくい状況は最後まで完全に解消されなかったようです。
さらに、特にイベント終盤になって不正アクセスから「チケットが勝手に譲渡される」トラブルも相次いでいることがわかりました。
残念ながらこうしたサイバートラブルは完全に防ぐことは難しい状況です。
イベントにデジタル技術を活用する場合には、運営側でのセキュリティ対策はもちろんのこと、購入者側でセキュリティ強化のため、二段階認証には顔認証・指紋認証などの生体認証を使うこともしっかりとアナウンスしていくべきでしょう。
理想と現実のギャップ
入場者を対象に行っているこれまでのアンケートでは、回答した人の8割程度が「満足した」と回答しています。これはかなり高い水準と言えます。
大阪・関西万博(EXPO 2025)では、当初「並ばない体験」を掲げて予約制を導入し、待ち時間を無くすことを目指していました。しかしながら結果として入場者数が増えるほどパビリオンの予約が難しくなり長い待ち時間が発生しました。5年に1回の国際的なイベントである点や、人が多い分だけ待つのが当たり前と納得できる状況だった点で、こうした点に不満はあっても体験に対する満足度は総じて下がらなかったように感じられます。
「大阪・関西万博(EXPO 2025)」は「情報戦の万博」とも言われました。SNSなどで多くの情報を得て、あらかじめ準備をして効率的に楽しもうと考えた人が多かったように思います。そのため「予約できなかった」「待ち時間が長すぎて諦めた」という意見が目立っている印象です。
しかし一方で、「ノープランだったけど楽しかった」「待たずに楽しめるものもあった」という声も少なくありません。待ち時間を無くすシステムをどのように捉えて行動するか、来場者自身の楽しみ方のスタイルによっても満足度は左右されます。
ただ、長期間にわたる大規模イベントでは、掲げた理想と現実とのギャップが満足度の低下を招く場合があることを留意する必要があるでしょう。来場の時期や時間帯が集中しないように平準化を計画しておくことも大切です。
地方都市の大規模イベント開催時の留意点
大阪・関西万博(EXPO 2025)におけるさまざまな課題を紹介しました。それを踏まえて、大規模なイベントを開催するときの留意点を紹介します。
現実的な目標設定
イベント企画において、予算管理は成功のカギとなります。主催者の財務状況や過去のイベント実績、期待される効果などを考慮して、全体の予算上限を明確に設定しましょう。費用対効果を考慮し、優先順位をつけて予算配分することも大切です。集客においても、楽観的な数字をかかげるのではなく、過去の類似イベントを参考に現実的な集客目標を立てるようにしましょう。
利便性を考慮した会場選び
参加者にとって来やすく、快適に過ごせる会場を選ぶことで、イベントの満足度に大きく影響します。公共交通機関からのアクセスも重要で、最寄り駅からの距離や、複数の路線からアクセスできるかどうかがポイントとなります。会場周辺の環境についても、飲食店や宿泊施設が充実しているエリアであれば、遠方からの参加者にも安心して来てもらえるでしょう。
当日のトラブル対策・マニュアル作成
イベント当日に起こりうるトラブルに適切に対応するためには、事前に想定されるトラブルを洗い出し、対応マニュアルを作成しておくことが重要です。
たとえば、機材の故障、急病人や怪我人の発生、天候の急変、交通機関トラブル、予想を上回る来場者数などがあります。また、トラブル対応の優先順位も決めておくことで、不測の事態にも迅速かつ適切に対応できるでしょう。
大阪・関西万博(EXPO 2025)では、事前に「テストラン」と呼ばれる試験運用が実施され、多くの課題点が表面化しました。その中には開会当日には対応が追い付かなかったものもありましたが、こうしたシミュレーションや実証実験的なものを重ね、健全な運営ができるよう準備を整えるのも一つの方法です。
過去の課題から学んでイベントを成功させよう
大阪・関西万博(EXPO 2025)ほど大規模なイベントになると、課題は山積みです。予想外のトラブルが起きる可能性もあるため、まずは過去のイベントで起きた事例を確認し、同じような問題が起きないように対策を立てて開催に臨むことがおすすめです。また、地域の特性ならではの課題についても、事前に調査して洗い出しておくとよいでしょう。



