地域で子育て世帯を支える。子育て支援/応援パスポートとは?

「子育て支援/応援パスポート」という制度について、「初めて耳にする」もしくは「名前は聞いたことはあるけれど、詳しくは知らない」という方が多いのではないでしょうか。地域ぐるみの子育て支援策として注目を集めており、全国で取り組みが進められています。本記事では、制度の仕組みや特徴的な取り組みをしている自治体の事例を取り上げます。
子育て支援/応援パスポートとは?

子育て支援/応援パスポートとは、地方自治体や地域企業が協力して運営する子育て世帯の生活を支援する制度です。自治体が協賛企業を募集し、協賛企業には子育てを支援/応援する企業としてのステッカーが交付されたり、子育て世帯が使う専用アプリに登録して店舗情報を発信したりできるようになります。自治体は子育て世帯向けにパスポートを発行し、子育て世帯は協賛企業のお店でパスポートを見せると、優待サービスや割引サービスなどを受けられます。
以前からこうした取り組みをする自治体はありましたが、平成28年4月から国と全国の自治体が協力して全国展開をはじめ、共通のパスポートで全国のサービスが受けられるようになりました。
子育て支援/応援パスポート事業の仕組み

ここでは子育て支援/応援パスポートの仕組みや特徴を詳しく解説していきます。
都道府県が運営主体だが全国共通で利用できる
子育て支援/応援パスポート事業を提唱しているのは内閣府こども家庭庁ですが、運営主体となるのは全国の都道府県です。市区町村が独自に実施していたり、運営を企業や団体に委託していたりするケースもあります。都道府県ごとに専用のステッカーやロゴを用意しており、デザインには違いがあります。
都道府県によっては支援対象が「18歳未満」の場合や「小学生以下」「中学生以下」「未就学児」の場合があるなどの違いも見られます。また支援対象に妊婦が入っている場合や、大人だけでなく子どもも優待サービスを利用できる場合があるなど、自治体によって異なります。
協賛企業がサービス提供
事業の趣旨に賛同し一定の条件を満たした企業が、協賛企業として子育て支援/応援パスポート事業に登録されます。基本的に協賛企業の登録は無料です。
協賛企業は店頭などにステッカーを貼ることができ、子育て世帯の利用者はステッカーを見て、子育て支援に前向きな企業なのかどうかを判別する手段になるため、販促効果が期待できます。ステッカーはこども家庭庁が発行している共通マークと、自治体ごとに発行しているマークがそれぞれあり、併用している自治体もいれば、どちらか一方だけ利用している自治体もいます。企業にとっては、信頼性の向上、認知度の向上、イメージアップ、 PRコストの圧縮などのメリットが期待できます。
協賛条件は自治体によりさまざま
参画要件は必ずしも高くはなく、自治体が定める行動のいずれかを何らかの形でやっていればよいとされています。協賛企業としての条件は自治体によって違いますが、東京都が公表している参加要件は参考になるでしょう。
○本事業の趣旨に賛同し、協賛するのであれば業種は問いません。ただし、風俗営業法で規制されている業種や、社会通念上、子育て家庭が利用するのは適当と認められない施設は除きます。
○以下のサービスを一つ以上実施していただければ、登録することができます。(内容は協賛店等で自由に決めていただきます)
(1) 粉ミルクのお湯の提供
(2) おむつ替えスペース
(3) トイレにベビーキープ設置
(4) 授乳スペースの提供
(5) キッズスペースの提供
(6) ベビーカーを店内で利用可能
(7) 景品の提供
(8) ポイントの付与
(9) 商品の割引
(10) その他、利用者に資するサービス
特徴的な子育て支援/応援パスポート事業の事例

ここからは、一般的な子育て支援/応援パスポート事業から一歩踏み込んで、特徴的な取り組みをしている自治体を紹介していきます。
栃木県:販促備品を積極提供
協賛企業向けにステッカーを発行することは一般的ですが、栃木県ではさらなる販促物を提供しています。栃木県は「とちぎ笑顔つぎつぎカード」として子育て支援/応援パスポートを発行していますが、ステッカーだけでなく、ポスター、プレート、のぼり旗まで無料で提供してくれます。企業が大いにアピールして、社会全体で子育て支援の機運を高めていく姿勢が表れています。
福井県:多子世帯にプレミアムサービスを提供
福井県は「ふく育パスポート」として子育て支援/応援パスポートを発行しています。特徴的なのは、子どもが2人以下の家庭が利用できる通常のパスポートと、子どもが3人以上いる場合に利用できる“プレミアムカード”の2種類を用意している点です。
協賛企業のすべてではありませんが、企業の中には通常カードを提示された場合とプレミアムカードを提示された場合で、優待サービスを変えて提供している企業もあります。たとえば通常の割引に加えて、プレミアムカード提示者には粗品を渡していたり、付与ポイントを2倍にしたりする、といったものがあります。
佐賀県:LINEアカウントで利便性向上
佐賀県は「子育てし大県“さが”」という名称で子育て支援/応援パスポートを発行しています。多くの自治体では紙でのパスポートや、専用アプリでの発行が多いですが、佐賀県の場合はLINE公式アカウントに登録するだけで利用可能です。新たなアプリをダウンロードする必要がなく簡単に使えます。
多くの人にとってLINEはよく使うSNSツールなので、特集情報やお知らせなどが届きやすい効果もあります。LINEに登録すると、リッチメニューから会員証を表示できるようになり、それを協賛店舗で見せて使用可能です。子育てに関わるポータルサイトや店舗検索もLINEでできるので便利です。
熊本県:AIツールとの連携
熊本県は「子育てとくとく応援団」という名称で子育て支援/応援パスポートを発行しています。熊本県の特徴は、別ですでに運用されているAIツール「聞きなっせAI くまもとの子育て」と連携していることです。「聞きなっせAI くまもとの子育て」は、24時間365日、子育てに関する相談をAIが受け答えしてくれるツールです。
「聞きなっせAI くまもとの子育て」に登録すると、「子育てとくとく応援団」に登録している店舗の中から、自分の条件にあった店舗を検索して提案してくれます。
官民協働による情報発信ツールとして運用しよう
子育て支援/応援パスポートと聞くと、割引やポイント付与を行う店舗が集まった取り組み、とだけ捉えられてしまうことがありますが、その本質は企業と自治体が協働で情報発信するシティプロモーション用の媒体だということです。
子育て支援に対する機運を地域全体で高めることが目的であり、それを官民が一緒に盛り上げていくために共同運用する媒体ともいえます。多くの企業が協賛することで、子育て支援に積極的な地域としての機運が醸成されれば、地域としては子育て世帯の流入や流失防止に寄与することが期待できます。
また、子育て世帯が自治体の情報に触れる入口としての機能もあり、アプリを入口として自治体が発信する情報により広く触れてもらうツールにもなります。すでに多くの都道府県で運用されていますが、今後はそれをどう活用して、子育て世帯の利便性向上やシティプロモーションにつなげていくかが重要になってくるでしょう。
サイネックスは、情報メディア事業で「わが街事典」を始めとするさまざまなシティプロモーション媒体の構築などの支援を行ってきました。「子育て支援/応援パスポートと既存の情報発信媒体を繋いで効果的に運用したい」などをお考えの方は、ぜひお問い合わせください。
また、サイネックスは先進的な取り組みをされている自治体の職員様にインタビューを行い、より深い行政施策の進め方やポイントに関する情報を発信しています。こちらの記事も、ぜひご覧ください。