サイネックス・マガジン

冬の安全を守る自治体の取り組み !  除雪作業・路面凍結対策・融雪道路の最前線

目次
  1. 除雪作業の現状と課題
  2. 路面凍結対策の最新動向
  3. 融雪道路の技術と導入効果
  4. 持続可能な冬期道路管理へのアプローチ
  5. 冬の安全・安心を支えるために
冬の安全を守る自治体の取り組み ! 除雪作業・路面凍結対策・融雪道路の最前線

日本は、世界でも有数の豪雪地帯を抱える国です。国土の約半分が「特別豪雪地帯」に指定されており、北海道や東北、北陸、山陰地域では、冬季になると連日のように除雪作業が行われます。近年は、気候変動の影響により降雪パターンが変化し、短時間に集中して雪が降る「ドカ雪」や、想定外の寒波による路面凍結事故の増加など、自治体にとって新たな課題が浮かび上がっています。

こうした中、限られた予算と人員で効率的に道路を維持することは、地域の安全と経済活動を支える「生命線」といえます。しかし、人手不足や除雪車両の老朽化、限られた予算といった課題に直面している自治体も少なくありません。


今こそ、従来の除雪・凍結防止対策に加え、テクノロジーを活用した「スマート除雪」や環境配慮型の「融雪道路」など、総合的かつ持続可能な冬期道路管理の取り組みが求められています。安全で安心な地域づくりのために、除雪・凍結防止・融雪の取り組みを一体的に考え、さまざまな工夫を凝らしている事例や取り組みについてご紹介します。




除雪作業の現状と課題

冬季の安全確保に欠かせない除雪作業は、地域の生活を支える重要な社会基盤です。
しかし近年、人手不足の深刻化や除雪車両の老朽化、燃料費の高騰など、多くの課題が顕在化しています。一方で、GPSやセンサー、気象データを活用した効率的な除雪管理が進み、作業の見える化や最適化が図られています。
さらに、自治体や地域住民、企業が連携して迅速に対応する体制づくりも進展しており、持続可能な冬期除雪体制の構築が求められています。



除雪作業の流れ(初動対応〜排雪)

冬の道路管理で最も重要な作業の1つが「除雪」です。
積雪が始まると、自治体や委託業者は気象情報をもとに出動体制を整え、早朝や深夜を問わず、除雪車が主要道路・生活道路の雪を取り除きます。その後、積み上がった雪をダンプで運び出す「排雪作業」までを行うのが一般的な流れです。
これらの作業は、住民の通勤や緊急車両の通行を確保するために欠かせません。



作業員確保の難しさと地域連携の動き

近年、除雪作業を担う人手の確保が難しくなっています。
除雪オペレーターの高齢化が進み、若い世代の担い手が減少していることが大きな課題です。除雪作業は季節的な仕事で、普段は農業など別の仕事をしている人が、積雪の時期だけ作業を請け負う形式ということもあり、どうしても本業が優先されてしまう、といった特徴もあります。
また、燃料費の高騰や除雪車両の維持費、老朽化に伴う更新コストも自治体の大きな負担となっています。



除雪作業の効率化事例(GPS連動除雪システム、作業計画の自動化など)

こうした状況の中、除雪作業の効率化に向けて新しい技術が導入され始めています。
たとえば、GPSと通信システムを活用して除雪車の位置や作業状況をリアルタイムで把握できる仕組みや、過去の降雪データをもとに自動で作業計画を立てるシステムなどです。
さらに、地域住民や企業と協力して、主要道路だけでなく生活道路も迅速に除雪する「地域連携型除雪」の取り組みも広がっています。




路面凍結対策の最新動向

冬の安全を守る自治体の取り組み ! 除雪作業・路面凍結対策・融雪道路の最前線

冬季の交通事故の大きな原因になるのが、路面の凍結です。
気温が下がる早朝や夜間は、見た目ではわかりにくい「ブラックアイスバーン」などが発生しやすく、走行中のスリップ事故が多発します。ブラックアイスバーンとは、濡れた路面のように見えても、実際は凍っている危険な状態のことです。車が滑りやすく、ブレーキをかけても止まりにくくなるため、交通事故の原因にもなります。
こうした凍結を防ぐために、自治体では塩化物の散布や路面温度の監視など、さまざまな凍結防止対策が進められています。



路面温度センサー・AI予測による事前凍結防止

最近では、路面温度センサーやAIを活用した予測システムにより、凍結が起きる前に塩化物の事前散布を行う仕組みが広がっています。これにより、従来の「降雪後対応」から「予防型対策」へと移行が進み、効率的で無駄のない凍結防止作業が可能になりました。



環境配慮型凍結防止剤(塩害対策・環境負荷軽減)

また、凍結防止剤の使用にも変化が見られます。
従来の塩化ナトリウムなどは効果が高い一方で、金属の腐食や植物への影響といった課題がありました。豪雪地帯で車のサビが目立つ光景がよく見られます。
融雪剤として使われる成分の中には環境毒性があるといわれているものもあり、近年では使用が避けられる傾向もあります。環境にやさしい凍結防止剤や、塩害を抑える混合タイプが各地で導入されつつあります。



凍結警報システムやドライバー向け情報発信の活用

ドライバーや歩行者への安全情報発信も重要です。
凍結警報システムや道路情報板、SNS・防災アプリを活用して「今どこが危険なのか」をリアルタイムで共有する取り組みが広がっています。地域ごとに天気予報のような形で路面凍結予測を見ることができるため、スタッドレスタイヤの装着や、走行するエリアの選択など、ドライバーの安全に寄与しています。
こうした対策の積み重ねが、冬季の交通安全と地域の安心につながっています。




融雪道路の技術と導入効果

冬の安全を守る自治体の取り組み ! 除雪作業・路面凍結対策・融雪道路の最前線

融雪道路は、道路の下に設置した装置によって雪を自動的に溶かす仕組みの道路です。
様々な技術が開発されてすでに利用されており、除雪作業の負担軽減、交通の安全確保、省エネルギーで効率的な冬期道路管理に寄与しています。地域や気候条件に合わせた導入が進み、持続可能な雪対策として注目されています。



地中温水循環・地下水散布・電熱線方式など融雪技術の種類

地中温水循環方式は安定した融雪効果があり、幹線道路や交差点に適しています。冬季の地中温度は地表温度よりも高いため、地中で温めた水を道路コンクリートの下で循環させて、緩やかに雪を溶かす方式です。地中熱だけでなく、下水道の発酵熱を活用する方式などがあります。
地下水散布方式は初期コストが比較的低く、導入が容易ですが、水質や地下水量の確保が課題です。また、地下水のミネラル等の成分が道路に付着するため、長く利用していると道路が茶色っぽくなってしまう課題もあります。電熱線方式は設置が簡単で小規模道路に向いていますが、電力を購入するとコストが非常に高額になるため、最近では太陽光発電など自家発電の再エネルギーとの組み合わせも進んでいます。



初期コストと維持管理費の比較

費用面では、導入時に高い初期投資が必要ですが、除雪人件費の削減や事故防止による社会的コストの低減といった長期的な効果が期待されています。維持管理費についても、センサー制御や遠隔監視システムを導入することで、効率化が進んでいます。



自治体導入事例(新潟・富山・北海道など)とその効果

実際に、新潟市や富山市、札幌市などでは、主要道路や歩道への融雪設備が整備され、冬季の交通確保や歩行者の安全確保に大きな成果を上げています。これらの地域では、気象条件に応じて稼働を最適化することで、省エネ化と安全性の両立を実現しています。
融雪道路は、除雪の省力化だけでなく、冬季の事故防止や暮らしの質の向上にも貢献する技術として、今後ますます重要性が高まっています。




持続可能な冬期道路管理へのアプローチ

近年、除雪や融雪にかかる費用や人手の確保がますます難しくなっている中で、「持続可能な冬期道路管理」が重要なテーマとなっています。安全を確保しつつ、限られた資源を有効に活用するために、各自治体では新しい技術や仕組みの導入が進められています。



スマート除雪・IoT技術の導入促進

注目されているのが、スマート除雪やIoT技術の活用です。たとえば除雪車にGPSやセンサーを搭載して作業状況をリアルタイムで把握する手法は、近年のDX化推進の流れとともに普及しています。除雪車の現在地を把握し、手薄なエリアを特定できるため、オペレーターがドライバーに最適な指示を出せるようになりました。
AIの活用においては、降雪量や気温データを分析して最適な出動計画を提案する仕組みが実用化されています。これにより、作業の効率化とオペレーターなど人員負担の軽減、さらには自治体にとっての人件費等の負担軽減が期待されています。



エネルギー効率化・再エネ活用型融雪システム

再生可能エネルギーを活用した融雪システムも注目を集めています。地中熱や温泉廃熱、下水熱、太陽光発電を利用して道路の雪を溶かす仕組みは、エネルギーコストの削減だけでなく、環境への負荷軽減にもつながります。再生可能エネルギーで生み出される熱は高温ではありませんが、雪を溶かすだけであれば高温である必要はなく、人肌レベルの温度で問題ありません。
普段は捨てられている熱を活用することで、コスト削減と安全確保が一石二鳥で得られる仕組みです。



雪を資源として利活用

昔の日本では「氷室(ひむろ)」といって、冬のうちに保管しておいた雪を使って食品を保存したり熟成させたりするなど、貴重な資源として雪が使われていました。この仕組みが、今になって注目を集めています。これまで多くの豪雪地帯では、除雪した雪をひとところに集め、溶けるまで放置していました。雪だけで小高い丘になり、スペースを取ってしまう上に経済的な価値を生み出していませんでした。
しかし近年、雪を涼しい倉庫などに保管しておき、冷房に活用する取り組みが注目を集めています。とくに、大量の冷房用電力を消費するデータセンターの冷却に使われています。データセンターは全国各地に建設が相次いでおり、膨大な電力消費に伴う温暖化への悪影響が懸念されていますが、これまで厄介者だった雪を活用することで、地球やコストにやさしいエネルギーが得られる可能性が見えてきました。




冬の安全・安心を支えるために

冬の安全を守る自治体の取り組み ! 除雪作業・路面凍結対策・融雪道路の最前線

冬の道路管理は、地域の暮らしと経済を守る大切な役割を担っています。除雪・凍結防止・融雪といった対策を個別に行うのではなく、一体的に計画・運用することが、安全で快適な冬の交通環境を実現する鍵となります。
また、気象データやセンサー情報などを活用し、地域の気候や地形に合わせた最適な対策をデータにもとづいて進めることも大切です。これにより、効率的かつ環境にやさしい冬期道路管理が可能になります。
そして何より、自治体の積極的な技術導入や、住民・企業・地域団体との協働体制の強化が、これからの「安全なまちづくり」につながります。
冬の課題をチャンスに変え、地域の力で持続可能な未来を築いていくことが求められています。

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