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自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【前編】

目次
  1. そもそも、自治体職員研修とは?
  2. 自治体職員研修の現在地
  3. 後半では成功事例をご紹介します
自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【前半】

地方自治体の仕事は年々複雑化・高度化しており、職員に求められる能力も多様になっています。法律や条例に関する知識、行政の運営力に加え、市民の声を聞く傾聴力や関係者との調整力も重要です。こうした背景から、総務省 自治大学校が行った「地方公務員の研修実態等に関する調査」では、各自治体でどのような研修が行われ、どの分野を重視しているかが明らかにされています。
 
本記事では前半と後半に分けて、前半では自治体職員研修の歴史と調査結果の概要を、後半では職員研修の現状や課題、改善のポイントをわかりやすく整理しました。また研修が職員の能力向上や自治体運営の質向上につながる具体例も紹介し、今後の人材育成の方向性を考えていきます。
職員研修が自治体運営の質向上につながることを示すとともに、具体的な取り組み事例や成功のポイントも紹介します。




そもそも、自治体職員研修とは?

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【前半】

自治体職員には、条例や法令遵守などの法律知識や政策立案・予算管理・事業推進などの行政運営能力、市民対応や住民との協働、組織内コミュニケーションを支える傾聴力・対話力、さらに部局間や他自治体との調整・交渉力といった幅広い能力が求められており、学生時代にこれらの能力を身に付けることは困難です。
 
そこで国や自治体は、自治体職員用の特別な研修を行い、公共サービスを速やかに担えるよう、能力向上に努めています。自治体職員研修ではさまざまなスキルをバランスよく育成する傾向がありますが、研修の重点も時代と共に変化してきました。



自治体職員研修は戦後に生まれた考え方

1940年代までは、自治体職員の教育は自治体ごとに実施しており、全国的な統一性はなかったといわれています。しかし第二次世界大戦後、新たな憲法が制定されるなかで地方自治法が制定されました。これまで国が統括してきた地方行政を、住民自らが行う方向に舵が切られた、ということです。
そうなると、各自治体では当然ながら必要な能力をもった人材を自ら育てなければいけなくなります。そこで、自治体職員の資質を高めるための自治体職員研修の考え方が生まれてきたのです。



時代に合わせて教育機関が設立されてきた

自治体ごとに独自に教育を行うとはいえ、自治体職員に求められる能力や資質は、共通している部分が多いです。たとえば法律知識や政策立案、予算管理、事務事業の取り組み方などは、どこの自治体でも基礎は共通しています。各自治体でバラバラに実施していたら手間と予算がかかり、非効率である上に、小さな自治体では講師確保などが難しく、差が生まれてしまいます。そこで国が自治大学校と呼ばれる中央研修機関を設立し、高度な自治体職員研修を効率的に担う体制ができました。
しかしその後、高度経済成長に伴って自治体職員の数も増え、自治大学校だけでは研修需要に対応しきれなくなってきました。そこで市町村アカデミー、全国国際文化アカデミーをはじめとして、主に都道府県単位で全国に研修機関が設立され、現在に至っています。



自治体職員研修で教わること

近年の自治体職員研修はかなり幅広い内容が扱われていますが、基礎的な科目としては、「税務」「監査」「消防」「情報通信技術」「その他専門技術関係」に分類されるといわれています。具体的には、憲法・行政法・民法・経済学・財政学といった法令関係、地方自治制度・地方公務員制度・地方税財政制度・ 地方分権の動向と課題・地方分権を担う人事戦略・比較地方自治論といった地方行政財政関係、 政策の手続きと戦略、政策評価、社会調査・統計といった公共政策など、多岐に渡ります。
研修スタイルとしては、自己啓発、職場研修があり、専門知識を身に付けるために職場外研修も積極的に取り入れられています。
対象は新規採用者だけではありません。主任・係長研修、課長補佐・管理職研修、トップセミナー、と職位ごとに必要な研修が分かれており、必要に応じて自治体職員は研修を受講することが推奨されています。

日本の地方公務員の人材育成/CLAIR(クレア)一般財団法人自治体国際化協会




自治体職員研修の現在地

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【前半】

自治大学校は、令和7年3月に「地方公務員研修の実態に関する調査」の結果を公開しました。この調査は3年ごとに定期的に実施されているもので、自治体職員に対する研修状況を把握し、より効率的で効果的な研修を計画することを目的にしています。
自治体職員研修に各自治体がかける予算総額は、コロナ禍以降ずっと回復せず低迷していましたが、令和6年度予算で初めて、コロナ禍を上回る水準となりました。多くの自治体が、職員のキャリア形成や能力向上を意欲的に取り組んでいることがわかります。
研修計画面では、令和3年度以降人材育成基本方針の改正を行った81団体のうち48団体は、その改正に伴い59.3%が研修計画の改正を行いました。また調査によると、都道府県の約79%が、自分の地域の市町村職員を対象にした研修を実施していました。

ここでは令和6年時点の最新の傾向をご紹介しながら、さらに詳しく自治体職員研修の今を考えます。



課長位級以上の受講率が高くなっている

自治体大学校の調査では、職位ごとの研修である階層別研修の受講状況が公開されています。令和6年度の課長級研修の受講率は92.0%で3年前と比較して2.2%増加、首長などを対象としたトップセミナーの受講率は36.4%と低いですが、3年前と比較して5.4%増加していることがわかりました。
課長級より低い職位の受講率は横ばいか低下傾向が見られるのに対して、上級職の受講率は増えています。この背景には、DXなど新たに取り組むべき重要なテーマが掲げられるようになり、トップレベルがしっかりとした認識をもたなければならない、という課題意識があるのかもしれません。



自治体経営とDX・情報政策で新設課程が増加

特別で専門的なテーマを扱う「特別研修」は、時代の流れに合わせて必要となる内容を研修科目として新設することがあります。特別研修には細分化された種別があり、「人事・労務」や「危機管理」「まちづくり・デザイン・建築」など13種別があります。自治体大学校の調査によれば、令和4年目以降に新設された過程が占める割合が多かった種別は、「自治体経営」(24.5%)と「DX・情報政策」(30.4%)でした。
この背景には「消滅可能性都市」という言葉が表すように、自治体の持続的な運営や人口対策など、緊急に取り組むべき自治体経営の課題に対する危機意識があるのかもしれません。また生成AIなどをはじめとする社会を大きく変えるようなテクノロジーが登場し、自治体としてもどのように向き合うべきかを考えなければならないタイミングに来ている、という共通認識が生まれているのかもしれません。



定年引上げに対応するための研修受講が増加

定年延長への対応として、自治体がどのような研修を実施しているかを調べた結果、多くの自治体が職員の新しい働き方に備えるための研修を取り入れていることがわかりました。まず、「新たな役割に対する心構え」を学ぶ研修は全体の62.6%が実施しており、とくに都道府県では87.2%と非常に高い割合となっています。また、コミュニケーションやICTなど「新たな役割を担うにあたって必要となるスキル(コミュニケーションスキル、ICTスキル等)」を身に付ける研修は48.7%が実施しており、こちらも都道府県が70.2%で最も高い結果でした。
さらに、「高齢期までのキャリア形成についての知識・考え方」の研修は全体の50.3%が行っており、指定都市が75.0%と最も積極的に取り組んでいます。そのほか、「モチベーションを高めるポイント」や「PC操作スキル」などを扱う研修も挙げられ、自治体が多様な形で定年引上げに対応しようとしている様子がうかがえます。


外部委託は4割程度

自治体職員研修には、階層別研修とは別に、特定テーマを扱う特別研修があります。自治大学校の調査によると、階層別研修を一部また全部外部委託している割合は42.5%、特別研修の外部委託割合は39.5%と、両方ともおよそ4割がなんらかの形での外部委託を選んでいるようです。



DX・情報政策研修の現状と課題

調査によると、DX人材の育成については課題があるようです。職員研修担当の部門がDX推進リーダーの育成用の研修を受けているかどうか質問したところ、1割程度の受講に留まっている状況が明らかになりました。その理由は、「研修対象者の受講時間確保の困難」「研修のための人員・予算等の不足」「研修実施のための教材・研修技法についての情報の不足」が4~5割の回答を占める結果となっています。
外部委託は、本来はこのような自治体職員ではカバーしきれない分野を補う役割が期待されていますが、人員や予算不足が課題になっている可能性があります。




後半では成功事例をご紹介します

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【前半】

今回は、自治体職員研修の変遷や仕組みに触れた上で、総務省自治大学校による調査結果から見えてきた傾向をご紹介しました。
後半では、今後の自治体職員研修の方向性や、すでに実践して一定の成果を上げている自治体の具体例をご紹介します。

(出典)総務省:地方公務員の研修実態等に関する調査

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