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自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【後編】

目次
  1. 令和3年以降の研修の方向性
  2. 職員研修の課題とポイント
  3. 自治体によるデジタル人材育成の取り組み事例
  4. 持続可能なキャリア形成と多様なキャリアパス
  5. 研修を戦略的に活用し、地域の持続的発展を目指す
自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【後編】

地方自治体の仕事は年々複雑化・高度化しており、職員に求められる能力も多様になっています。法律や条例に関する知識、行政の運営力に加え、市民の声を聞く傾聴力や関係者との調整力も重要です。こうした背景から、総務省 自治大学校が行った「地方公務員の研修実態等に関する調査」では、各自治体でどのような研修が行われ、どの分野を重視しているかが明らかにされています。
 
本記事では前半と後半に分け、前半では自治体職員研修の歴史と調査結果の概要を紹介しました。後半では職員研修の現状や課題、改善のポイントをわかりやすく整理します。また、研修が職員の能力向上や自治体運営の質向上につながる具体例も紹介し、今後の人材育成の方向性を考えていきます。



令和3年以降の研修の方向性

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【後編】

総務省「自治体DX・情報化推進概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果)」の令和4年度概要によると、全国の市区町村のうち、DX・情報化を推進するための職員育成に取り組んでいる自治体は75.3%にのぼっています。キャリア形成では、職員一人ひとりの将来を見据えた階層別研修を充実させ、自治体DXでは、デジタル行政への対応力やデータ活用、業務の効率化といったスキル習得が重視されています。こうした方向性は、多くの自治体が取り組みを進める背景となっており、デジタル庁の方針や住民ニーズの変化、人材定着への配慮などがその要因と考えられます。
 
自治体DX・情報化推進概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果)



デジタル庁の方針

令和3年以降、多くの自治体で職員育成・研修への取り組みが拡大した背景には、デジタル庁の方針があります。デジタル庁は、自治体に対してオンラインサービスの整備やデータ活用、業務効率化を推進しており、DX人材の育成を国の重要施策と位置づけています。そのため、職員一人ひとりがデジタル知識やスキルを身につけることが、迅速で質の高い行政サービスの提供につながります。この方針に沿って、自治体研修にはDX研修やデータ活用研修が組み込まれるようになっています。

2025年デジタル庁活動報告|デジタル庁



住民ニーズの高度化

住民の生活や働き方が多様化する中で、行政サービスにも迅速かつ柔軟な対応が求められています。
たとえば、オンライン申請や電子決裁の導入、データに基づく政策立案や業務改善などが日常化しており、職員が最新の知識やスキルを身につけていなければ、住民の期待に応えることが難しくなります。また、住民との対話や相談対応も多様化しており、一人ひとりの状況やニーズに合わせたサービス提供が重要です。そのため、職員研修では単なる知識習得だけでなく、実務で使えるデジタルスキルやデータ分析能力、さらに柔軟な対応力やコミュニケーション力を身につけることが求められています。こうしたスキルを磨くことで、職員は業務の効率化だけでなく、住民満足度の向上や地域課題の解決にもつなげることができます。
今後の行政では、研修を通じて職員の能力を高め、変化する社会に対応できる自治体をつくることが不可欠です。



職員の定着促進の必要性

キャリア形成研修やDX研修を受けることで、職員は自分の将来像やキャリアの道筋をイメージしやすくなり、必要なスキルや知識を身につける実感を得られます。こうした経験は、自分の成長を感じると同時に、自治体で長く働き続けたいという気持ちを高めます。とくに若手職員やデジタル人材にとっては、自分の専門性や将来の見通しが明確になることで安心感が生まれ、自治体DXを進める上で欠かせない人材として定着しやすくなります。
また、研修で学んだことを日々の業務に生かせる環境が整うと、個人の成長だけでなく、業務の効率化やサービス向上にもつながり、職員のモチベーションアップにも役立ちます。

このように、キャリア形成やDX研修は、職員の成長と自治体の発展を両立させる大切な取り組みです。




職員研修の課題とポイント

自治体職員研修には、いくつかの課題があります。
まず、研修で学んだ知識やスキルが現場でうまく生かされない「実務とのずれ」を感じる可能性があります。
次に、研修の効果を測る方法が満足度アンケート中心になってしまうと、学んだことが業務にどれだけ役立ったかを評価する指標が不足しています。
また、日々の業務が多忙なため、DX研修などに必要な時間を確保するのが難しい自治体もあります。
さらに、研修と人事評価が十分に連動しておらず、学んだ成果が昇進や評価に反映されにくいことも考えられます。
 
これらの課題を改善するポイントとしては、オンラインと集合研修を組み合わせた学習の継続化、研修設計に複数部門を巻き込んだ現場課題重視の体制づくりがあげられます。また、受講後の行動変化や業務成果を評価に加えることや、研修成果を人事評価に反映する仕組み、研修後のOJTやフォローアップを通じて学びを現場で定着させることなどが有効でしょう。




自治体によるデジタル人材育成の取り組み事例

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【後編】

職員研修の中には、実際に成果をあげている自治体の事例もあります。キャリア形成研修を活用することで、職員の昇進や異動がスムーズになった自治体や、DX研修をきっかけにデジタル窓口の整備や業務効率化を進めた自治体があります。こうした成功の背景には、学びを大切にする組織文化や上司・リーダーの理解、研修後のフォローアップやOJTの活用があります。職員一人ひとりの成長が、自治体の運営の質向上にもつながる好例です。
 
これらの事例に共通しているのは、職員が安心して学び、挑戦できる風土があることです。それに加えて、変化を進める上司やリーダーがしっかり支えていることも重要です。この両方がそろうことで、研修で学んだことを実際の業務に生かしやすくなり、自治体の運営やサービスの質向上につながっています。




神戸市:データラボによる行政データの可視化

神戸市では、BIツール(例:Tableau)を活用して人口や産業、移動などの統計データをダッシュボード形式で可視化しており、政策立案の迅速化や精度向上に役立てています。可視化されたデータは職員間で容易に共有できるだけでなく、市民や企業とも情報をスムーズに共有できるため、地域課題の解決や共創のプラットフォームとしても機能しています。また、データに基づく意思決定が可能になることで、業務効率化や効果的な施策立案が促進され、自治体全体の運営力向上につながっています。

こうした取り組みは、自治体DXの先進事例として国内外から注目され、他の自治体にとっても参考となるモデルケースとなっています。
 
神戸データラボ



https://www.city.kobe.lg.jp/a47946/data.html

奈良市では、DXの進行状況を「DXダッシュボード」で市民に公開し、自治体運営の透明性向上に取り組んでいます。業務効率化のためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や電子申請、庁内SNSなどを全庁的に導入しており、職員の作業負担を軽減しながら、手続きの迅速化やサービス品質の向上を実現しています。さらに、ダッシュボードによって進捗状況や成果が可視化されることで、市民が自治体の取り組みを理解しやすくなるだけでなく、データに基づく意思決定の精度も向上しています。

こうした取り組みは、自治体DXの先進事例として評価され、他の自治体にとっても参考となるモデルケースとなっています。
 
DXにより利便性向上・業務効率化をさらに推進【市長会見】(令和7年5月13日発表)/奈良市ホームページ



総務省・先進自治体:デジタル人材育成のガイドラインと研修

総務省は、自治体DXを推進するために「自治体DX推進計画」と「自治体DX全体手順書」を策定しています。これに基づき、先進的な自治体ではCIO:Chief Information Officer(最高情報責任者)やCDO:Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)といった専門ポジションを整備し、デジタルスキルやDXマインドをもった職員を管理職などに育成する取り組みが進んでいます。
 
具体例として、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)の「自治体DX人材育成プログラム」では、管理職向けのリーダーシップ研修やDXリテラシー強化研修が行われています。
多くの参加者が高い満足度を示すとともに、業務への意識や姿勢の変化(マインド変容)も報告されています。
 
総務省|自治体DXの推進|デジタル人材の確保・育成




持続可能なキャリア形成と多様なキャリアパス

今後の自治体職員研修では、AIやデータ分析、エビデンスに基づく政策立案などDXスキルをさらに伸ばすことが求められています。従来の経験や勘に頼った意思決定ではなく、統計データや調査結果、事例分析などを活用して、より効果的で透明性の高い政策を立案・実施することが目的です。
 
同時に、職員一人ひとりが将来を描けるよう、持続可能なキャリア形成や多様なキャリアパスの設計も大切です。さらに、自治体同士や民間、住民と連携した研修を取り入れることで、学んだことを日々の業務に生かしやすくなるでしょう。また、研修を通じて職員の定着や意欲向上を支えることもつながります。全国的な課題である、人材確保といった面においても重要といえます。

国や総務省の支援制度や予算を活用しながら、職員の成長と自治体運営の質向上を両立させる取り組みが今後ますます必要とされています。




研修を戦略的に活用し、地域の持続的発展を目指す

自治体職員研修の実態と今後の方向性 — 自治大学校調査から見える課題と変革【後編】

総務省の調査から、地方自治体の研修は幅広く行われているものの、学んだことを業務に生かす方法や評価の仕組み、自治体間の差には課題があることもわかりました。しかし研修は、職員の成長だけでなく自治体の運営力やサービスの質を高める重要な資源です。
今後はDXやキャリア形成のさらなる充実、自治体や民間、住民との連携を生かした研修など、実践的で効果の高い取り組みが期待されます。職員一人ひとりの成長が自治体の変革につながる未来を見据え、研修を戦略的に活用していくことが、地域の持続的な発展の鍵となります。


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