サイネックス・マガジン

「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介

目次
  1. 視点1.観光資源の再定義—「何もない」は最大の思い込みである
  2. 視点2.農業×観光で実現する「稼げる」地域づくり
  3. 視点3.インバウンド戦略—需要の獲得と地域共生の両立
  4. 視点4.地域の未来を描くための「補助金活用術」
  5. 観光と地域が笑顔でつながる未来へ
「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介

人口減少と地域経済の縮小が深刻化する中、自治体にとって観光は「域外からお金を呼び込み、まちに活気を取り戻す」ための大切な施策です。観光客のニーズは「モノ消費(買い物)」から「コト消費(体験)」へと移行し、地域住民の生活環境を守る「オーバーツーリズム対策」と「観光振興」を両立させる高度なマネジメント能力が自治体に求められています。
今回は、「観光資源の再定義」「農業との連携」「インバウンド戦略」「補助金の活用」という4つの切り口で、自治体が進めるべき施策のポイントをまとめました。



視点1.観光資源の再定義—「何もない」は最大の思い込みである

「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介

「わが街には有名な観光地がない」と諦める必要はありません。観光資源とは、もともと地域にある素材を見つけ出し、磨き上げることで生まれるものだからです。資源には、山や川などの「自然資源」と、食や祭り、生活風景などの「人文資源」がありますが、大切なのは「ランク」にこだわらないことです。今の旅行者は、有名な名所よりも、その土地にしかない「日常の風景」や「物語」に価値を感じています。
たとえば、地元の人には当たり前の「田舎の暮らし」を体験プログラムにしたり、アニメの舞台となった場所を「聖地」として活用したりすることで、新しい客層を呼ぶことができます。宮崎県綾町の「自然との共生」や岐阜県飛騨市の「里山体験」の成功も、日常の風景を「ここでしか味わえない価値」として発信したことが決め手となりました。こうした魅力を掘り起こすには、地域住民の協力が欠かせません。住民自身が気づいていない「地元の誇り」を対話の中から見つけ出すことこそが、選ばれる観光地づくりの第一歩となります。

【詳細はこちら】
観光資源とは?観光客を呼ぶアイデアと事例



「田舎の風景」や「日常の暮らし」をコンテンツ化

都市生活者が失った「日本の原風景」は、それ自体が非常に魅力的な観光資源になります。地元の人には当たり前の農作業や囲炉裏での食事を、価値ある体験として切り出す工夫が重要です。
たとえば、徳島県三好市の落合集落では、古民家を再生して「何もない贅沢」を演出することで、国内外の旅行者が訪れる秘境体験スポットへと生まれ変わらせました。岐阜県飛騨市の種蔵地区では、不便な棚田を「癒やしの場」と捉え直し、棚田のオーナー制度を通じて都市部の人たちが定期的に訪れる仕組みを作っています。また、秋田県仙北市では、農家に泊まって家族のように過ごす「心の交流」を売りに、修学旅行などの受け入れで活気を見せています。さらに宮崎県綾町のように、町全体の「自然と共生する暮らし」をブランド化した事例もあります。
これらの共通点は、住民が当たり前だと思っていた日常を、外部の視点を取り入れて「ここでしか味わえない価値」として磨き上げたことにあります。



「地域の歴史や伝承」を掘り起こし、単なる観光地を「物語の舞台(聖地)」へ

「聖地」としての物語性とは、アニメの舞台だけでなく、その土地に伝わる歴史や伝説を活かして「ぜひ行ってみたい」と思わせる魅力を作ることです。
たとえば、岩手県遠野市では『遠野物語』に出てくるカッパなどの伝説を、語り部の実演や「カッパ捕獲許可証」といった形で体験できるようにし、「物語が生きている町」としてのブランドを築きました。鳥取県境港市では、水木しげる氏の描く妖怪の世界を街中に再現し、大人も子どもも物語に没入できる環境をつくっています。また、岡山県総社市では「桃太郎伝説」のルーツを地域の歴史跡と結びつけ、迫力ある歴史浪漫として再定義しました。
このように、地域に眠る「目に見えないお話」を掘り起こし、訪れる人の想像力をかきたてる仕掛けを作ることが、長く愛される「聖地」を生み出すカギとなります。



「観光インフラ」は観光客の満足度と地域経済の循環を支える基盤

観光客にとってわかりやすい「情報の整備」は、交通や宿泊施設と並ぶ重要な「観光インフラ」の1つです。Googleビジネスプロフィールの活用やデジタルサイネージの設置は、地域の魅力を正しく伝え、隠れた観光資源を見つけてもらうための第一歩となります。
たとえば、兵庫県豊岡市の城崎温泉では、街中のすべてのお店がGoogle上の情報を常に最新に保つよう連携しています。これにより、観光客はスマートフォンで営業時間をすぐ確認でき、浴衣姿での街歩きを安心して楽しめるようになりました。また、徳島県の神山町や美波町では、高速ネット環境を整えるだけでなく、現地の空き家や生活情報をデジタル化して発信しました。その結果、観光だけでなく、移住やリモートワークの拠点として全国から注目を集めています。
情報は、必要な人に届いてはじめて価値が生まれます。観光客が普段使っているマップやSNSを自治体が戦略的に使いこなし、滞在中の「困った」をなくす仕組みを作ることが、地域を活性化させるための強力な手段になります。



視点2.農業×観光で実現する「稼げる」地域づくり

これからの地域づくりでは、観光と農業を別々に考えるのではなく、農業(1次)に加工(2次)と販売・サービス(3次)を組み合わせる「6次産業化」によって、地域全体で稼ぐ仕組みを作ることが重要です。たとえば、果物狩りなどの観光農園は、単なる農作業の場ではなく、入園料や体験料という「サービス収入」を得ることで、天候に左右されにくい安定した経営を可能にします。また、忙しい収穫時期に「お客様に収穫を楽しんでもらう」ことは、人手不足を解消しながら収益を上げるという、理想的な価値の転換を生み出します。
さらに、特産品をただ販売するだけでなく、独自の基準でブランド化を進めたり、「果樹のオーナー権」や「現地体験チケット」をふるさと納税の返礼品に活用したりするなどの工夫も欠かせません。これにより、モノを送るだけで終わらない「コト消費」の流れができ、地域を応援してくれるリピーターが増えていきます。自治体が生産者と民間企業をつなぐ橋渡し役となり、地域の宝である農産物を地域内で高い価値に変えていくことにつながります。このサイクルを回し続けることこそが、人口減少に負けない「稼げる地域」をつくるための確かな戦略となります。

【詳細はこちら】果物狩りの可能性とは?観光農園の役割や地産地消と6次産業化に役立つ取り組みを紹介



事例①「育てる・味わう・贈る」特別な体験価値、ぶどうの樹オーナー制度(3年生育樹):山梨県 甲府市

山梨県甲府市では、老舗農園が手がける「シャインマスカットの樹、丸ごと1本のオーナーになれる制度」が、体験型のふるさと納税にあります。
この制度の魅力は、単に高級なぶどうが届くだけでなく、「自分専用の樹」をもつという特別な体験ができる点にあります。オーナーになると、家族や友人と一緒に収穫体験イベントに参加できるほか、もし不作の場合でも一定量の収穫が保証されているため、安心して楽しめます。さらに、農園が運営するカフェの食事券も付いており、現地を訪れて地域の魅力を直接味わうきっかけにもなっています。
寄附金額は150万円と高額ながら、専属スタッフによる丁寧な管理と、収穫したぶどうを親戚や友人に直送できる「贈る喜び」までがパッケージ化されています。このように農業(1次)に、収穫体験や飲食サービス(3次)を高度に融合させることで、納税者を「1回きりの支援者」ではなく、地域のファンやパートナーへと変えることに成功しています。



事例②「巡る・食す・綴る」歴史と四季の没入体験、五感で楽しむ街道浪漫めぐり:長野県 木曽町

長野県木曽町にある老舗旅館「街道浪漫 おん宿蔦屋(つたや)」に宿泊できる「街道浪漫めぐりチケット」は、中山道・木曽路の歴史と豊かな自然をディープに味わう、体験型のふるさと納税として注目を集めています。
魅力は、単に温泉宿に泊まるだけでなく、木曽の四季を「巡る、食す、綴る」という特別なストーリーを丸ごと体験できる点にあります。寄附者は、地域の歴史を知り尽くしたガイドと共に宿場町や古道を巡るウォーキングに参加できるほか、地元の旬の恵みをふんだんに使った贅沢なランチを含む「1泊3食付き」のプランで、お腹も心も満たされる特別な時間を過ごせます。さらに、旅の感動や大切な人への思いを温かみのある筆文字で形にする「伝筆(つてふで)体験」もセットになっており、形に残る思い出を持ち帰ることができます。
寄附金額は高額帯ながら、木曽川の清流を望む創業300年以上の歴史に裏打ちされた上質なおもてなしと、普通の観光ではなかなか味わえない地域の文化へ深く没入する感動がすべてパッケージ化されています。このように地域の歴史・自然資源(1次・2次的な価値)に、ガイドツアーや宿泊、文化体験(3次)を高度に融合させることで、納税者を「1回きりの旅行者」ではなく、木曽路のファンや地域の応援団へと変えることに成功しています。



視点3.インバウンド戦略—需要の獲得と地域共生の両立

「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介

インバウンド需要が拡大する中、自治体には需要の取り込みと「住民の暮らしを守ること」の両立が求められています。
 
まず、外国人観光客が安心して過ごせるよう、多言語対応やキャッシュレス決済、Wi-Fiといったインフラを整えることは、もはや地域の「おもてなしの質」を左右する必須条件です。デジタル技術を活用して、マナー啓発や多言語案内をスムーズに行うことで、住民とのトラブルを未然に防ぐ工夫も欠かせません。
 
同時に、一部のエリアに人が集中しすぎる「オーバーツーリズム」を防ぐために、観光客の「時間」と「場所」を分散させることが重要です。夜間のイベントや平日の観光を促したり、シャトルバスを運行して渋滞を減らしたりすることで、地域の混雑を解消しながら観光の満足度を高めることができます。さらに、観光税などを活用してゴミ処理や交通整備の財源を確保し、その使い道を住民にしっかり説明して理解を得ることも大切です。
 
このように、デジタル活用による環境整備と、混雑を避ける仕組みづくりをセットで行うことが、地域と観光客が幸せに共存できる「持続可能な観光」につながります。
 
【詳細はこちら】インバウンドで観光促進! 成功の鍵と課題とは



事例③デジタル技術で混雑を解消!「観光客と住民の幸せな共生」:石川県金沢市

石川県金沢市では、人気の観光スポットに人が集中しすぎる問題を解決するため、ITを駆使した「混雑の見える化」に取り組んでいます。AIカメラで観光スポットの混み具合をリアルタイムに分析し、Webサイトなどで発信することで、観光客を空いている場所や時間帯へと賢く誘導しています。また、スマートフォンを通じて地域のルール(食べ歩きの禁止など)を多言語で直接届けることで、言葉の壁を超えてマナーを守ってもらう工夫も行っています。
この取り組みのポイントは、無理に観光客を減らすのではなく、テクノロジーを使って「時間と場所を分散させる」ことにあります。データを活用して混雑をコントロールし、観光客には快適な旅を、住民には平穏な生活を提供することで、双方が笑顔になれる持続可能な観光の形を実現しています。



事例④「完全予約制」で守る世界遺産の暮らしと絶景:白川郷

世界遺産の合掌造り集落として有名な岐阜県白川村では、冬のライトアップに観光客が殺到し、村の道路がパニックになるほどの混雑が大きな悩みでした。
そこで白川郷が踏み切ったのが、「イベントの完全予約制」という大胆なルール作りです。展望台や駐車場をすべて事前予約にしたことで、村が受け入れられる適切な人数をコントロールできるようになり、ひどい渋滞や混雑が劇的に解消されました。
この仕組みの素晴らしい点は、単に人を減らしただけではないことです。「予約をしてでも、ゆっくりと静かに景色を大切にしたい」という意欲の高い観光客が集まるようになり、結果としてマナーが向上し、村での食事やお土産にお金を使ってくれる「質の高い観光」へとつながりました。
無理に人を詰め込むのではなく、地域のキャパシティに合わせて「おもてなしの質」を高める。この取り組みは、歴史ある村の暮らしと、観光客の感動をどちらも守る「持続可能な観光の先駆的なモデル」となっています。



視点4.地域の未来を描くための「補助金活用術」

「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介

観光庁が進めるインバウンド対策の補助金は、単にお金をもらうための制度ではなく、「国が考える理想の観光地」を教えてくれるガイドブックのようなものです。最近の予算案からは、国が「一時的な流行ではなく、ずっと続く仕組み(持続可能性)」「観光客の満足度を高めてしっかり稼ぐ(高付加価値化)」「ITを使って混雑などの困りごとを解決する(課題解決型観光)」という3つのポイントを重視していることがわかります。
具体的には、混雑をデータで見える化して「オーバーツーリズム」を防ぐ取り組みや、無料Wi-Fiなどのインフラ整備、そして地域の将来像をじっくり練るための計画づくりなどが手厚く支援されています。
ここで大切なのは、「補助金があるからやる」のではなく、「自分たちのまちをどうしたいか」というビジョンを先にもつことです。まずは国の支援を上手に使って、地域の現状をじっくり調査し、小さな新しい試みを1つずつ形にしていきましょう。補助金を「理想のまちを実現するための頼もしい味方」として使いこなすことが、地域に笑顔と豊かさをもたらす、持続可能な観光地経営への第一歩となります。

【詳細はこちら】【最新情報】令和7年度予算から読み解く!自治体が使える2025年度のインバウンド補助金パッケージ



観光と地域が笑顔でつながる未来へ

これからの地域づくりで大切なのは、農業、商売、交通といったバラバラの活動を1つの大きな「まちの魅力」としてつなぎ合わせることです。山梨県甲府市の「シャインマスカットの樹のオーナー制度」や、各地のインバウンド対策が教えてくれるのは、ただ商品を売るだけでなく、「その場所へ行く理由」や「特別な体験」をつくることが、地域を応援してくれる「一生のファン」を増やす近道になるということです。
ここで一番のカギとなるのは、自治体が「まちのまとめ役(コーディネーター)」となって、地元の生産者や事業者、そして住民の方々の思いを1つにつなぐことです。便利なITツールや国の補助金は、あくまで理想を叶えるための「道具」にすぎません。それらをどう使い、どのような未来をつくりたいかという自治体の「情熱」こそが、まちを動かす本当の力になります。
この取り組みが目指すのは、単に観光客の数を増やすことではなく、訪れる人も住んでいる人も、「このまちに関われて幸せだ」と思える仕組みづくりです。自分たちのまちの宝物を再発見し、大切に磨き上げていくことで、観光は必ず地域を元気にする最高のエンジンになります。
皆さまの「このまちを良くしたい」という思いが、次世代に誇れる素敵な故郷を創り出します。その新しい一歩を、今ここから一緒に踏み出してみませんか。
行政サービスの充実・業務効率化を目的とした各種ソリューションについて、ヒアリング等お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちらから



  1. Top
  2. サイネックス・マガジン
  3. 「何もない」は最大の思い込み―新たな観光資源を生み出した4つの視点と事例を紹介