ようこそ「わが街」へ!移住支援自慢の自治体
最近ではUターン・Iターンという言葉は珍しくありません。少子高齢化や人口減少などの問題を抱える地方では、自治体がUターン・Iターンを促進するためのさまざまな取り組みを行っています。移住者のニーズに対し、どのような支援がうまくいっているのでしょうか。全国の自治体のUターン・Iターンの成功事例を紹介しますので、参考にしてみてください。

Uターン・Iターンとは?
Uターンとは、生まれ育った地方から進学や就職を機に都市部へ引っ越した後、再び生まれ故郷に戻ってくることです。一方でIターンとは、都会で生まれ育った人が就職や転職をきっかけに、住んだことのない地方へ移住するというものです。
Uターン・Iターンのメリット
Uターン・Iターンの人口が増えることは、自治体にとってさまざまなメリットがあります。たとえば、「若い世代の移住による地域活性化」「新たな消費者や労働力の増加による地域の商業やサービス業の発展」「都市部での経験や専門知識をもつ移住者による新しい産業創出」「地域コミュニティが活性化」「空き家問題の解消」などがあります。
Uターン・Iターンの注意点
Uターン・Iターン施策を実施する時に注意すべきことは、移住希望者が求めるものは、世代や移住希望者それぞれが状況によって異なるということです。若い世代、高齢者、子育て向きなど、それぞれのニーズを正確に把握しておかなければ、定住につながりにくくなる可能性があります。また、移住者が地域に定着し、活躍できるよう、移住後のフォローアップも重要です。
都会の人が地方移住を選ぶ理由

Uターン・Iターンを選択する理由は人によってさまざまです。ここでは、Uターン・Iターンを検討したり選んだりする人からよく挙げられる理由を紹介します。
理由1 プライベートを充実させたい
都会には仕事や人があふれていますが、「働くことに追われて自分の時間がなくなってしまう」と感じる人も多いようです。地方では、都会ほど時間や仕事などに追われず、比較的落ち着いた生活を送れます。空気や水がおいしい、美しい景色が見られるなど、地方の自然に魅力を感じる人も少なくありません。日常にもっと家族との時間を作りたい、プライベートに余裕をもって趣味を楽しみたいなどの理由から、UターンやIターンを選ぶ人もいます。
理由2 キャリアチェンジのため
キャリアチェンジも、Uターンを選ぶ理由の1つです。都会で勤務していた会社で身につけたスキルを活かし、地元に戻って地域に貢献したいと考える人が多いです。農業・林業・漁業など、「地方ならではの職種にチャレンジしたい」、「新たなビジネスやサービスを生み出しやすい地方で、地域の経済活性化や産業新興に貢献したい」などの理由で、Uターン就職を選ぶケースも少なくありません。
理由3 経済的ゆとりのため
都会に比べて地方は生活費を安く抑えられます。とくに家賃には大きな差があり、住居費を安く抑えられるのは大きなメリットです。賃貸の場合、同じ広さや築年数でひと月の家賃を比較すると1万円以上違う場合も珍しくありません。
また、食料品や日用品などの生活必需品や外食費なども、家賃ほどではありませんが、地方の方が安い傾向にあります。生活費を抑えられることで、経済的にゆとりをもちたいという理由で地方移住を考える人もいます。
理由4 子育てや介護など家庭の事情
親などの信頼できる近親者の近くに住むことで、安心して子育てができることもUターンを選択する理由の1つです。一方で、親に何かあった時すぐ駆けつけられたり、介護が必要になったりした時を考えてUターンを選択する人も多いでしょう。また、地方は自然が豊かで、子どもが遊べる公園や広場などの施設も多く、子どもがのびのびと成長できる環境があります。自然豊かな環境で子育てをしたいと考えて地方移住を選ぶケースもあります。
U・Iターンを促す自治体の支援制度

近年、地方の人口減少や少子高齢化などの問題から、地方への移住者を増やすため、Uターン・Iターンをサポートする自治体が増えています。地方の人口減少や空洞化といった問題に対して取り組むために、国や地方自治体が実施している取り組みを紹介します。
就職・雇用支援
全国で行われている就業サポートとして、Uターン・Iターンの就活応援事業があります。県外在住の学生や卒業後3年以内の求職者に、交通費などを支給している企業をサポートする、というものです。また、定住促進のために、地元企業との連携による求人情報の提供、自営業支援、新規事業立ち上げ支援などがあります。
子育て支援
地方に移住した人が子育てしやすい環境を整備する取り組みです。具体的には、待機児童をゼロにするために保育所の整備や、子育て支援センターの開設、地域住民との交流イベントの開催などがあります。
住宅支援
Uターンをする人々に住宅を提供することで、定住化を促進しようという取り組みです。たとえば、住宅を建築する場合、その土地購入や建設資金の支援、家賃補助、住宅ローンの利子等の補助、空き家のリノベーションや家財道具の廃棄費用などの経済的な支援があります。
お試し移住
地域住民と交流することで、地域の魅力を再発見できます。たとえば、地元食材を使った料理教室や農業体験、地域の歴史や文化に関するツアーなどがあります。お試し移住は地域の魅力を伝えられるメリットがあるだけでなく、地域の雰囲気を事前に理解する時間を提供することで「思ったものと違った」といった地域と移住者のミスマッチを避ける意味でも有用です。
地方のユニークな取り組み
全国共通の支援以外に、自治体ならではのユニークな取り組みが多くあります。移住を検討している人を対象に、宿泊費用や引っ越し代、レンタカー代の割引を実施する支援などが挙げられます。
U・Iターンの成功事例

全国の自治体がU・Iターン増加のためにさまざまな取り組みを行っています。ここでは、U・Iターンの成功事例を紹介します。
【育児支援と観光資源開発】北海道上士幌町
北海道上士幌町は、令和4年度の「移住・定住施策 優良事例」に選ばれた町です。2016年以降、人口約5,000人までⅤ字回復し、一躍話題になりました。
上士幌町が人口増加を実現できた理由の1つが、都市部の交流人口を増加させる施策に取り組んだ点です。「生涯活躍かみしほろ塾」「上士幌町まるごと見本市ツアー」「移住フェアへの積極参加」など、都市部の人たちとの接点を積極的にもつ取り組みをしています。
また、交流人口を増やすだけでなく、地域そのものの魅力創出にも積極的です。最近では再生可能エネルギーの普及促進、自動運転バス・ドローンなど次世代高度技術の活用など、近代的な地域づくりに挑戦しています。また、十勝平野を一望できる牧場「ナイタイテラス」に加え、「道の駅 かみしほろ」が北海道じゃらんの道の駅満足度ランキング2024で1位になるなど、観光分野でも魅力を高めています。
こうした自治体による地域活性化の取り組みと、移住者に対する地域住民のサポートもあり、移住者増加などの効果が出ているといわれているのです。
【移住促進のための東京事務所開設】青森県弘前市
青森県弘前市は、オンサイトとインターネット上でのPR活動がうまく機能して、移住者増加につながった事例です。弘前市が把握している数字の範囲内では、平成26年にたったの2名だった移住者が、令和3年には77名まで増加しました。
まずオンサイトのPR活動では、2016年10月に東京・有楽町「ひろさき移住サポートセンター東京事務所」を開設し、移住推進の拠点としました。首都圏で移住に興味をもっている人の相談に応じたり、セミナーを開催したりしています。東京に事務所を構えたことで、移住先を決めておらず、検討を始めた段階の人にも、早い段階で魅力をアピールできます。また、東京近郊で移住イベントを企画しやすいのも利点の1つです。
インターネット上でのPR活動では、移住ポータルサイトの「弘前ぐらし」やSNSなどを活用し、イベントの告知や各種支援制度の紹介を行っています。コロナ禍においても、オンラインの圏域合同移住セミナーを開催し、サイトのアクセス数を伸ばしています。海外在住の方のオンライン相談を受けて、Uターン起業した例もあり、オンラインのサポートが手厚い点も成功の要因となっています。
【積極的な情報発信】長崎県五島市
長崎県五島市には、2016~2020年の5年間で784人が移住し、九州におけるUターン・Iターン促進の代表的な成功例といえます。観光資源を最大限に活かし、移住に関心をもつ人々に効果的に魅力をPRしてきたことが成功につながっています。
なかでも、積極的なプレスリリースとメディア対応に注力し、オンラインセミナー実施などの積極的な情報発信に取り組みました。2022年12月8日には、先輩移住者から離島で暮らすことの良い面と悪い面をまとめて聞けるオンラインセミナー「島暮らしのリアル」を開催しています。リアルな島暮らしを知っておくことも、移住後のギャップを少なくするために効果的です。また、オンライン移住相談窓口も設けており、相談者1組に対し移住支援員2名の個別相談形式で、じっくり相談できる体制となっています。
特徴的なのは、インフルエンサーの活用です。旅行系YouTuberを起用して、離島ならではの魅力を発信する動画を作りました。動画は3万回以上再生され、五島市の認知度向上やイメージアップにつながっています。
【積極的な転職支援】島根県
島根県は、Uターン・Iターン希望者に対する転職支援によって、実績を上げている自治体です。たとえば、第一次産業の担い手を育成する「UIターンしまね 産業体験」では、農林漁業・介護・伝統工芸などの地場産業を体験する場合に、交通費や宿泊費など滞在に必要な経費の一部を助成しています。また、IT人材確保に重点を置いた、Uターン・Iターン転職も積極的に支援しています。地場産業の担い手増加や、ITの発達と活用によって移住者の増加だけでなく、地域活性化に成功しています。
島根県の活動のポイントは、支援をするだけでなく、リアルな情報発信に努めている点です。2020年からは「島根に移住したITエンジニアと話す会」、2021年から県内8市町(雲南市、益田市、大田市、出雲市、川本町、浜田市、奥出雲町、松江市)と連携したオンライン型の無料イベント「しまね移住体感オンラインツアー」を始めました。現地のリアルな声を聞ける場が、Uターン・Iターンを決めるために効果があるでしょう。
【官民協働で問題解決】岩手県遠野市
岩手県遠野市の特徴は、住民と自治体が協力して情報発信に取り組んでいる点です。地域創生の総合的な取り組みが功を奏し、10年間で100名以上が移住したといわれています。
さまざまな取り組みがありますが、代表的なのは、定住促進を図る「ふるさと遠野定住プラザ『で・くらす遠野』」の設置です。移住希望者が必要な情報を一元管理し、ワンストップで移住計画段階から最終段階の移住・定住までをサポートしてくれます。単に枠組みがあるだけではなく、これを自治体と住民が連携して運営しています。自治体側は部局を横断した組織「で・くらす遠野推進委員会」があり、住民側には「で・くらす遠野サポート市民会議」が設けられています。
遠野市はもとより「グリーン・ツーリズム」に積極的に取り組んでいたこともあり、外部からの人を受け入れることに抵抗感が少ないといわれています。そうした下地があり、実現できている部分もあるかもしれません。
その他にも「遠野みらい創りカレッジ」事業を立ち上げて、民俗学研究・発信の拠点化や企業の社員研修、大学のゼミ合宿・留学生研修、農家と連携したグリーン・ツーリズム、特産品開発など、地域の魅力を高める取り組みにも余念がありません。
【若者が地域活性化に貢献】福井県鯖江市
福井県鯖江市では、市長が市民の声を聞いて市政に反映したいという思いから、さまざまな取り組みを実施してきました。近年、県外の若者が盛んに市内でまちづくり活動を行ったり、鯖江の魅力をSNSなどで発信してくれたり、県内外の大学や大手IT企業がサテライトオフィスを市内に設置してくれたりと若者が地域活性化に貢献しています。「若者が住みたくなるまちづくり」の成果が生まれ、今後の人口増加が期待されています。
鯖江市の強みは、市長自ら思いを発信し、住民や若者の理解を得られている点です。地域のトップと住民が一体となって協力し合えることは、地域活性化において大きな強みになります。
まとめ
UターンやIターンの促進は、地方創生のために重要な取り組みの1つです。地方移住にメリットを感じられたり、ハードルが高くないと思えるような支援を用意したりすることが必要です。今回ご紹介した事例は、取り組みの内容が優れているだけでなく、効果的に情報発信し、多くの人に認識されている点も優れています。
サイネックスは官民協働によるシティプロモーションに取り組んでおり、自治体準公式シティプロモーション特設サイト「わが街ポータル」など、さまざまな発信媒体の運営をご支援しています。「これから情報発信を考えたい」「どのようなUターンやIターン施策が効果的か考えたい」という方は、ぜひお気軽にお声かけください。
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