サイネックス・マガジン

過剰な降雨と水不足。水リスクが高まる時代で自治体に求められる水資源管理とは

目次
  1. 水の過剰と不足が起きる背景と必要な対策
  2. 水リスクへのさまざまな対策事例
  3. 住民に水リスクへの対応を促すには?
  4. 官民一体で地域の水リスク対策に取り組みましょう
過剰な降雨と水不足。水リスクが高まる時代で自治体に求められる水資源管理とは

近年、極端な猛暑が続くことによる水不足や、線状降水帯の発生による大雨など、これまでの想定を超える事態が相次いでいます。
大雨による洪水などの水害が懸念される一方、降水パターンの変化や無降水日数の増加などによって、水不足への対応も必要となっています。
水リスクは、水害だけを指すものではありません。豪雨などによる水の過剰と、渇水による水不足の両面から捉える必要があります。
 
今回は、治水・利水の両面から水循環を捉え、国内の水資源の課題、雨水利用、再生水、官民連携などの視点から、これからの自治体に求められる水資源管理について考えます。




水の過剰と不足が起きる背景と必要な対策

過剰な降雨と水不足。水リスクが高まる時代で自治体に求められる水資源管理とは

気候変動によって降水パターンが変化し、大雨による水害の一方で、無降水日数の増加や積雪量の減少などによる水不足も懸念されています。
これからの行政には、洪水を防ぐ治水と水を確保する利水を別々に考えるのではなく、地域の水循環全体を捉えた水リスクへの対応が求められます。
 
環境省- 気候変動影響評価報告書(総説)



気候変動で変化する水資源を取り巻く環境

気候変動による降水パターンの変化は、水資源にもさまざまな影響を及ぼします。

環境省は、無降水日数の増加や積雪量の減少、蒸発散量の増加などによって、河川流量の減少や地下水位の低下が起こる可能性を示しています。また、気温の上昇によって農業用水や都市用水などの需要量が増加することも想定されています。

一方で、大雨の強度・頻度の増加による洪水や土砂流出なども懸念されています。水リスクは、水不足だけでなく、過剰な降雨による災害も含めて捉える必要があります。



治水と利水の両面を考える必要性

水が過剰になると洪水などの水災害につながる一方、水が不足すれば農業用水や都市用水などの確保に影響します。
しかし、今ある治水・利水施設では、現在の降雨状況に対応しきれない問題が発生しています。

日本のダムや堤防などの多くは、昭和30~50年代に建設されています。
建設当時と比べると、現在は気候変動の影響で平均気温が上昇し、降雨の極端化も進んでいます。建設当時には想定されていなかった状況の変化に、既存の施設だけでは対応しきれなくなっているのです。

これからの治水と利水の2つの側面を考える上で重要になるのが、水を流域全体で捉える視点です。
 
国土交通省が進める流域治水では、河川管理者だけでなく、国、自治体、流域のさまざまな関係者が連携して水災害対策を進める考え方が示されています。
水リスクへの対応も、治水だけ、利水だけと分けるのではなく、地域全体の水循環を見渡して考えることが重要です。
 
ダムコレクション- 国土交通省水管理・国土保全局



水循環を考える必要性

水リスク対策において、雨が降ってから川を流れ、貯留され、利用されるまでの水の循環を捉えることが重要です。
水循環基本計画では、流域マネジメントによる水循環イノベーションや、気候変動・大規模自然災害などによるリスクへの対応を重点的な柱として挙げています。
また、水の貯留・涵養機能を維持・向上させるため、森林、河川、農地、都市施設などを含め、流域全体で取り組む考え方も示されています。

各地の自治体の水資源管理も、地域の水循環全体を視野に入れることが重要になっています。
 
雨水の貯留・涵養機能の維持及び向上の取組推進に向けて- 内閣官房水循環政策本部事務局)




水リスクへのさまざまな対策事例

過剰な降雨と水不足。水リスクが高まる時代で自治体に求められる水資源管理とは

水リスクへの対応では、限られた水資源を効率的に利用するとともに、雨水や再生水などを有効に活用し、水を循環させる視点が重要です。

国土交通省は、雨水利用や再生水の利用、雨水の貯留・浸透などを通じた水循環の再生を推進しています。また、水インフラの維持管理や更新では、民間の技術力などを活用する官民連携も示されています。
 
上下水道:水循環基本計画 – 国土交通省



雨水を資源として活用する

大量の雨は、水害を引き起こすリスクがある一方で、地域に存在する水資源でもあります。

雨水利用には、水資源の有効利用だけでなく、下水道や河川などへの流出を抑制する側面もあります。
雨水を貯留・利用することは、「降った水をどう流すか」だけではなく、「降った水をどう活用するか」という水循環の視点から考える取り組みといえます。
 
国土交通省では、「雨水利用事例集」を公開しており、全国のさまざまな地域における雨水利用策を見ることができます。
たとえば能登空港では雨水をトイレの洗浄用水として有効活用しており、2024年の能登半島地震で断水や停電が発生したときも、非常用発電で雨水を貯水槽からくみ上げ、多くの人のトイレ利用を助けました。
 
雨水利用事例集-内閣官房水循環政策本部事務局



再生水など水を繰り返し使う仕組み

水資源を有効に利用する方法として、雨水だけでなく再生水の利用も挙げられます。
国土交通省は、水循環基本計画において、雨水利用とともに、下水処理水を再生水として利用する取り組みを推進しています。
 
再生水については、渇水時などに下水処理水を緊急的に利用するための設備整備や、利用促進に向けて、水処理技術や水質を適正にモニタリングする技術なども活用されています。
地域の状況に応じて、こうした水の有効利用を検討することも水リスクへの対応につながります。
 
国土交通省は下水再生水利用の事例集を公表しており、さまざまな事例を確認できます。
たとえば佐賀市の下水浄化センターでは、浄化された水を農業用水として農家が利用できるようにしています。
万一渇水が起きて農家が水不足になったとき、下水処理センターにタンクを持参すれば、蛇口から浄化水を得られる仕組みです。
 
渇水時等における下水再生水利用 事例集- 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部



経済的価値を付与した水源林の保全

適切な水資源を確保するためには、水の再利用や水質維持だけでなく、水源涵養機能にも目を向ける必要があります。

雨が降ったとき、上流に豊かな森林や棚田があることで、一気に河川に水が流れ出すことを防ぐことができます。
一方で、これまで水源涵養機能の重要性は認められつつも、水源涵養を高めても経済的メリットを直接得られる仕組みが十分でなかったため、森林整備や棚田の維持管理がうまく進みませんでした。
 
しかし近年、企業の脱炭素化の必要性が国内外で高まっています。
森林が成長してCO2を吸収した量を売買できる仕組み「J-クレジット」が活発に利用されるようになりました。J-クレジットは、国が運営するCO2削減・吸収量を売買取引し、そこで得られた収益をさらなる森林などのCO2吸収源の維持管理に充てられるようにする仕組みです。
 
たとえば、林業が活発な三重県尾鷲市では、私有林で吸収したCO2をJ-クレジットとして、大手引越し業者へ販売しています。
大手引越し業者は、引越しの際に発生するCO2をゼロにオフセットする引越しプランを提供することで客単価の向上を実現しており、企業と自治体の双方にとって、メリットがある取り組みになっています。
 
J-クレジット制度|J-クレジット制度とは温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度です。



官民の技術を水資源管理に生かす

水インフラをめぐる課題への対応では、行政だけでなく民間の技術力やノウハウを活用することも重要です。
近年では、官民連携で最新技術を生かした、流域単位の水循環・資源管理を実現しようとする広域的な動きが活発化しています。
 
たとえば愛知県が主導する「矢作川・豊川CNプロジェクト」は、流域に存在する自治体が所有する水インフラを、民間企業に対して新技術実証フィールドとして提供し、新たな技術開発を推進するプロジェクトです。
具体的な取り組みとして、ダム運用の高度化、小水力発電としての水力活用、流域で生み出された脱炭素効果を売買取引する仕組みなどが挙げられます。
 
矢作川・豊川CNプロジェクト・ポータルサイト – 愛知県




住民に水リスクへの対応を促すには?

過剰な降雨と水不足。水リスクが高まる時代で自治体に求められる水資源管理とは

水リスクへの対応は、インフラ整備や水資源の管理だけで完結するものではありません。

流域全体で水循環を考え、雨水利用や節水などの取り組みを進めるには、住民にその意味を伝え、理解を広げることも重要です。
健全な水循環に関する普及啓発、広報、教育は水循環基本計画の柱の1つに位置付けられています。
 
新たな水循環基本計画について- 内閣官房 水循環政策本部事務局



地域で起きている水リスクを知ってもらう

自治体が水リスクへの取り組みを進めるには、まず住民に地域の水を取り巻く現状を知ってもらうことが重要です。
大雨による水害だけでなく、水不足や水資源の確保など、水をめぐる課題はさまざまです。

こうした情報をわかりやすく伝えることで、水リスクを身近な問題として考えるきっかけをつくれます。



行政の取り組みと住民の暮らしを紐付ける

水資源管理や雨水利用などの施策は、行政だけで完結するものではありません。

住民がその意味を理解し、自分たちの暮らしとの関係を知ることで、地域全体で水について考えることにつながります。
たとえば、雨水を貯留・利用する取り組みや、水を有効に利用する考え方など、自治体が進める施策について、その目的や背景まで伝えることが大切です。

単に制度や事業を知らせるのではなく、なぜ必要なのかまで伝えることが、住民の理解を深めるために重要です。



継続的な情報発信で地域の意識を育てる

水リスクは、一度情報を発信すれば終わるものではありません。

気候変動による水環境・水資源への影響や、地域の取り組みについて継続的に情報を届けることが重要です。
自治体から住民へ継続的に情報を届けることで、水を地域全体の課題として捉える意識を育て、日々の暮らしの中で水について考えるきっかけをつくることができます。




官民一体で地域の水リスク対策に取り組みましょう

気候変動によって、水を取り巻く環境は変化しています。

大雨による水害への備えだけでなく、水不足や水資源の確保についても考える必要があり、水の過剰と不足という両面から水リスクを捉えることが重要です。
 
また、水リスクには水質や食料供給網の途絶など、水に関わるさまざまな問題も含まれます。
そのため自治体には、雨水利用や再生水の利用、流域全体での水循環の取り組みなどを進めるとともに、水を取り巻く現状や取り組みの重要性を住民にわかりやすく伝えていくことも求められます。
 
 
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